PROJECT:地域の役に立つ店舗の取り組み 感じ良い暮らしと社会を
未来へとつなぐ店舗を目指して

地域の“くらしの真ん中になる”をテーマに、2020年7月にオープンした無印良品 直江津。いち早く地域に根差した店舗づくりを行ったプロジェクトメンバーたちの心には、生活者視点で考える、良品計画の理念が息づいていました。

MEMBER

  • 古谷 信人

    古谷 信人 無印良品 直江津 コミュニティマネージャー

  • 林 昌宏

    林 昌宏 無印良品 直江津 店長

※組織名称は2021年9月1日のもので掲載しています。

STORY/01

自然と生まれた、店舗づくりの方針

 上越市に本社を置くバス会社が運営し、直江津駅から徒歩10分ほどの場所にある直江津ショッピングセンター。このショッピングセンターに出店するプロジェクトが立ち上がったのは、2019年6月のことでした。キーテナントだった大型スーパーが撤退し、売場の約半分が空いたショッピングセンターの求心力を取り戻し、店舗周辺の地域を活性化させることがプロジェクトの課題として上げられていました。

 地域とのつながりをつくるコミュニティーマネージャーとして着任した古谷が、直江津に抱いた第一印象は「生活をするのに不便そうな場所」だったと言います。「駅前には人の姿がほぼなく、商店街にあるのは夜間営業の飲食店ばかりで、日中はシャッター通りのようになっている。国道やバイパス沿いには全国チェーンのスーパーやドラッグストアなどが一通り揃っているものの、車を5分ほど走らせないとたどり着けない。多くの地方都市で問題となっている、中心市街地の衰退を絵に描いたような状態でした」。

 プロジェクトの最初の議題となったのが、どのようにしてショッピングセンターに活気を取り戻すかでした。話し合いを始めて間もなく、約5千平方メートルの広大なフロアで無印良品の商品を売るだけでは、地域の役に立つ店舗にはならないという意見が上がったと古谷は言います。

 「良品計画では、商いを通してお客様の役に立つことをするのが当たり前だという考えが、風土として深く根付いています。店舗にいるスタッフの全員が、お客様のために自分たちが何をできるか常に考えていますし、もし店舗にいらしたお客様が必要としているものが無印良品になければ、他社様の商品を提案したりもする。直江津のプロジェクトの中で、お客様が暮らす地域のために店舗として何ができるかという思考になったのも、ごく自然な流れでした」。

STORY/02

地域の役に立つ店舗の姿を求めて

 地域の役に立つ店舗の姿を模索する中、プロジェクトメンバーたちは自ら直江津に暮らす方々のもとを訪れ、直接話を聞く場を設け始めます。どのような困りごとを抱えているのか、暮らしに足りていないものは何なのか、どのように街が変わることを望んでいるのか。住民から商いを営んでいる方々まで、さまざまな声に耳を傾ける日々が続きました。

 「とにかく色々な人にお会いして、話を伺っていました。1時間だけならと約束をいただいたものの、実際にお会いしたら2時間、3時間と話を聞かせてくださる方が多かったのを覚えています。また、話を伺う中で念頭に置いていたのが、新しくできる店舗が地域にある店舗からお客様を奪わないようにすることでした。既存の店舗と一緒になって直江津を盛り上げるために、良品計画として提供すべきサービスや品揃えは何かとひたすら考えていました」。

 2019年10月には林が店長として着任し、古谷やプロジェクトメンバーが構想したことを具現化して、店舗のオペレーションへと落とし込む作業が始まりました。日々の生活に欠かせない“食”を充実させた売場、地域の名店のレシピを取り入れたフードコート「なおえつ良品食堂」、店舗周辺の書店では取り扱いが少ない絵本や“食”に関する書籍を数多く揃えた「BOOKS & CAFÉ」、コミュニティスペース「Open MUJI」など、直江津に暮らす人々の声をもとに生まれたアイデアが形となっていきました。

 そして2020年7月20日、地域の“くらしの真ん中になる”をテーマとした無印良品 直江津がオープンしました。

STORY/03

「感じ良い暮らし」を実現する取り組み

 新型コロナウイルス感染症への対策として大規模な販促を控えたにも関わらず、オープン当日には多くのお客様が訪れました。現在では商品を買うために訪れるお客様だけでなく、学生や社会人といった方々の来店も多いと古谷は言います。

 「学生が自習できる場所が直江津には少ないと教育関係者の方々から伺っていたので、Open MUJIはイベントを開催する週末以外は、自習や休憩をできる無料スペースとして開放する形式にしました。でも実際にオープンしてみると、通学に直江津駅を利用されている学生だけでなく、オンライン会議などを行う場として社会人の方々が使われている光景もよく目にするようになりました。

 また、直江津地区には飲食店が多いものの、そのほとんどが営業時間をランチタイムとディナータイムに分けていて、お昼時を過ぎると閉店してしまいます。その点、なおえつ良品食堂は時間を区切らず通しで営業をしているので、いつでも食事ができてありがたい、といった声をいただいたりもしています」。

 そして2021年8月からは、気軽に健やかな暮らしを支える「まちの保健室」の展開が始まりました。一般用医薬品を取り扱う調剤薬局を併設し、プロ仕様の医療機器を使った身体測定や健康相談ができる、良品計画としては初となる健康領域での取り組みです。「全国津々浦々に無印良品が出店する中で、心身へのサービスも日々のくらしには大切な領域です。高齢化やコロナ禍により健康への関心と不安は増しています。」と、林は言います。

 「子どもの頃であれば、学校で定期的に行われる健康診断を受けたり、身体についての相談も保健室の先生に気軽にできたりしました。大人が気軽に相談できるところはどこだろう。無印良品が気軽に健やかな暮らしを支えるサービスを提供することで、より地域で役に立つようになれると考え始まった取り組みです。

 まちの保健室で行なっている体操講座などが、ご年配の方々が無印良品のフロアに足を運ぶきっかけとなり、幅広い世代のお客様が訪れやすい環境が店舗としては整いつつあります。でも、地域に暮らす誰もから信頼され、自然と足を運んでしまうような場所となるためには、行うべきことがまだまだあると考えています」。

STORY/04

30年後の直江津を想像しながら

 現在プロジェクトチームとして取り組んでいるプランは、小規模のものも含めると100個以上あり、その中には店舗周辺の地域を活性化するだけでなく、直江津駅の利用者を増やすことを目指したものもあります。地域と向き合う日々の中、「かつてキーテナントとして営業していた大型スーパーのように、無印良品もこの直江津ショッピングセンターで30年以上営業しつづけたい」と考えるようになったと古谷は言います。

 「30年前の直江津ショッピングセンターは、ファミリー層のお客様でにぎわっていたと思います。しかし当時子どもだった世代の多くが、現在は直江津を離れてしまっている。現在無印良品 直江津にご来店いただいているのは地域に残った家族の方々だと思いますが、彼らの子や孫の世代が30年後も暮らし続けたいと思える地域となるように、直江津の魅力を店舗から発信していきたいです」。

 また、林は「地域の役に立つと商いを両立させるのは、とても難しいことです。だからこそコミュニティーマネージャーと店長がいるのだと思います」と言います。「コミュニティーマネージャーが自由に発想をし、そのアイデアを実現できるように店長が店舗経営をしていく。現状では、このバランスがうまく取れているので、今後の店舗としての指針のひとつになっていくと思います」。

 暮らしを支える商品を提供するだけでなく、店舗そのものを暮らしの役に立つ場所にし、地域における生活環境を向上させることを目標とする無印良品 直江津。直江津で生活する人々の“くらしの真ん中になる”ことを目指す取り組みは、これからも続いていきます。