おいしさと適正価格を徹底して磨き続ける姿勢
現地で学んだ味や調理方法を商品開発に生かしたレトルトカレーは、無印良品のベストセラー商品のひとつです。
多くの方々からご支持をいただき続けている背景には、商品としての品質とお客さまが手に取りやすい価格の両方を保とうとする担当者の思いがありました。
メンバー
食品部 調味・加工担当
M.H
現地に学ぶカレーが誕生するまで
世界のさまざまな国で食べられているカレーの味わいを手軽に楽しめるレトルトカレーは、無印良品の代表的な商品のひとつです。しかし、発売当初は商品の方向性が現在とは違っていたとM.Hは言います。
「レトルトカレー自体は1990年代から商品としてあったのですが、世界の食文化に学ぶカレーのラインナップが登場したのは2000年代に入ってからです。タイのカレーをお手本としたグリーンカレーは2002年に、インドのカレーをお手本としたバターチキンカレーは2009年に発売されたのですが、当時はどちらかというと、日本の食文化との相性の良さを考えた味でつくられていました。現在のようにインド各地やタイへと出向き、現地の味を学ぶようになったのは2012年からで、レトルトカレーの品揃えが増え始めたのもその頃からです。
日本の家庭の多くでつくられるカレーは煮込み料理に近いものですが、インドやタイのカレーは短時間で仕上げられます。また、インドのカレーだけを見ても、実にさまざまなバリエーションがあります。この地域ごとにかたちを変えながら、それぞれの場所で根付いていったカレーの食文化に興味を持ったことも、品揃えが増えたきっかけのひとつでした。それが今日まで商品として支持をいただけているのは、カレーが国民食とされるくらいに日本の家庭料理として根付いている土台があったからこそだと思います」。
現在では40種以上の品揃えがあるレトルトカレーですが、そのどれもが無印良品のものづくりの基本である「素材の選択」「工程の点検」「包装の簡略化」の3つの視点を守りながらつくられています。そして、より多くのお客さまが手に取りやすいように、さまざまな工夫も同時に行われています。
「おいしさ」と「価格」のせめぎ合い
より多くのお客さまが手に取りやすい商品となるように行われているのが、味と価格の定期的な見直しです。「シーズン毎にテーマを設けて新商品の開発と見直しを行うのですが、どのような方向性で味を見直すかを検討する期間も含めると、一つの商品に対し1年ほどの時間がかかっています。」と、M.Hは言います。
「私たちはおいしさを最優先していますが、原料の価格は毎年変わるので、味に影響が出ないように、置き換え可能なものであれば原料調達先の幅を広げるなどの工夫をします。例えばプーパッポン(蟹と卵のカレー)の場合、具材である蟹の分量を増やすために原材料を一つひとつ見直し、同じ蟹でも使う部位を変えることで味と価格はそのままに、蟹の分量を増やすことができました。ただ、産地によって味が変わってくる原料もあるので、バランスの取り方が難しい部分でもあります。
現地で学んだことと素材を生かすために、スパイスやハーブはカレーの種類に合わせて、刻み方や加熱の方法を変えています。種類ごとに全く異なる工程についても一つひとつを見直し、以前は最良としていた部分を変更することもあります。特にインドやタイのカレーの多くがそうなのですが、工程を減らすために原料のスパイスをまとめて一度に入れたりすると、味が変わってしまうという難しさがあります。
また、それぞれのカレーに使う具材は一種類ずつ計量しながらパックに入れていくので、カレーによって具材の種類や入れ方の工程が大幅に変わります。具材の種類を減らせば、その分かかる工程やコストを抑えることが可能ですが、食べたときの満足感がなくなり、“これなら自分でつくったほうが良いのではないか”と思われてしまいます。素材の選択にしても工程の点検にしても、おいしいカレーをつくりたいという気持ちと、どこまで原価を抑えられるかという気持ちが、常にせめぎあっています」。
おいしさと適正価格の両立を考えたレトルトカレーは、コロナ禍によって生活様式を変えざるを得ない日々の中、販売点数を大きく伸ばし多くの支持をいただきました。そして、より多くのお客さまの暮らしを支える商品になることを目指し、2021年秋冬シーズンに向けてレトルトカレー全体の価格が見直されました。
つくり手、かつ生活者としての感覚
2021年秋冬シーズンに価格が見直されたレトルトカレーの中には、人気の高いキーマカレーも含まれていました。商品をさらに手に取りやすい価格にしたことについて、M.Hは「より多くの方々の暮らしの役に立ってほしいという気持ちと、これをきっかけにさらに多くの方々に商品を手に取ってほしいという気持ちの両方がありました」と、言います。
「食というのは生活の基盤であり、食べるということにきっちりと向き合えているかどうかが大切だと私は思います。例えば私自身、在宅勤務の経験から、昼食にかけられる時間の少なさを実感しました。お子さんの面倒を見ながら在宅勤務をされている方の場合は、さらに大変なことが多いと想像されます。このような暮らしの場面で、温かいものを口にしていただくきっかけになったり、普段とは違う味わいの食事を楽しんでいただくきっかけとして、レトルトカレーが少しでも役に立てればと考えています」。
また価格見直しによって、レトルトカレーの価格帯を250円・350円・450円の3つに区切り、商品ごとの価格の違いを分かりやすくしました。適正な価格を設定する上で、レトルトカレーの他に冷凍食品も担当するM.Hは「つくり手であると同時に一人の生活者でもあるので、どの商品もなるべく価格をワンコイン、500円以下に抑えたいという気持ちがあります」と、話します。
「例えばお客さまにおいしいと感じていただける商品であれば、“500円を出す価値がある”と思っていただけるかもしれません。でも、味や中身を知らない商品の場合、“他では見かけない商品だから”という理由で許容できるのは、500円までだろうという感覚があります。つくり手としては化学調味料不使用などの付加価値をつけながら、商品と価格のバランスを取るようにしていますが、この生活者視点の感覚を忘れずに今後も開発に取り組んでいきたいです」。
専門的な知識を持って商品の品質を追求しつつ、お客さまと同じ生活者の感覚をもって価格を設定する。この両方をできるからこそ、レトルトカレーの品質と価格は磨き続けられていると言えるかもしれません。
より多くの人の生活を支えるために
レトルトカレーをはじめとする食品を購入することをきっかけに、初めて無印良品の店舗を訪れるという方が増え、お客さまの層がさらに広がりつつあります。このような状況の中、「無印良品のレトルトカレーは、バターチキンカレーなどのインドのカレーが注目されがちですが、日本人に馴染みのある味わいのカレーを品揃えに増やすことは、私の中でひとつの課題になっています」と、M.Hは言います。
「昨年、いわゆる日本の標準的なカレーが品揃えの中にないと、カレーは好きだけれど海外の辛いカレーは苦手なお客さまが手に取れる商品がなくなってしまうと考えたことがありました。その考えを生かして開発したのが、家でつくったようなカレーの味わいを目指した『おうちのこだわりビーフカレー』でした。それ以前も、辛みが苦手な方でも食べられるように、唐辛子や粒こしょうを使用しない『辛くないカレー』シリーズを開発しました。
これはレトルトカレーに限ったことではないですが、お客さまの幅が以前よりも広がっているからこそ、日常に根ざした商品をつくる必要があると考えています。何か足りないものがあったときに“無印良品に行けば(探しているものが)あるだろう”と、お客さまが気軽に足を運んでいただける店舗になっていくためにも、これまでの現地に学んだカレーの品揃えにプラスする形で日本のカレーも増やしていきたいです」。
多様な品揃えでありながら、一つひとつの商品がおいしさと適正価格を追求している無印良品のレトルトカレー。より多くのお客さまの生活に欠かせない存在となるように、さらなる試みは続いていきます。