変わるパッケージのかたち、
変わらないものづくりの基本
良品計画では、資源循環型・自然共生型の社会および持続可能な社会の実現に貢献するために、さまざまな取り組みを推し進めています。その一環として行われているのが、商品パッケージや売場陳列用資材に使用する素材の見直しです。2020年にはインナー商品のパッケージを大きく見直し、使用するプラスチック原料の割合を半減しました。その根底にあったのは、創業当初から受け継がれているものづくりの基本となる考えでした。
メンバー
衣服・雑貨部 インナー・雑貨MD担当
Y.K
商品のように開発されるパッケージ
無印良品は、1980年の誕生以来「素材の選択」「工程の点検」「包装の簡略化」の3つの視点を守りながら、商品の開発と定期的な見直しが行われ続けています。余分な装飾を省いたパッケージも、40年以上前から変わらない無印良品の商品の特長のひとつです。商品の使い始めと同時に役目を終えるため記憶に残りにくいパッケージですが、商品と同様に繰り返し見直しが行われています。
「無印良品のものづくりでは、使う人・作る人・自然環境に配慮したものづくりを行うことを大きなコンセプトにしています。パッケージの開発や見直しについても同じ考え方で取り組んでおり、ひとつの商品のように捉えています」と話すY.K。「包装の簡略化の考え方に基づき、多くの商品がタグだけをつける形がとられていますが、どうしてもパッケージを必要とする商品の場合は、商品と並行して開発を行っています。実は商品と同じくらい、パッケージの開発にも力を入れています」。 また、脱プラスチックに関する取り組みが国内でも本格化する以前から、商品を包むビニール包材を廃止するなど、プラスチックを削減する取り組みが行われていました。「インナー商品を入れるファスナーが付いたプラスチック素材のパッケージにしても、焼却する際の二酸化炭素排出量が少ない素材を使用するなど、環境への負荷を減らす方針が取られていました」とY.Kは言います。そして2018年、衣服・雑貨、生活雑貨、食品の部門を超えた、あるプロジェクトが立ち上がります。
お客さま視点と環境配慮のせめぎ合い
2018年に立ち上がったのが、地球資源の循環および地球環境負荷の低減を目指す、無印良品の商品全体のパッケージ素材を大きく見直すプロジェクトでした。この背景には、パッケージにプラスチック原料が多く使われていることに対する社内からの意見があったとY.Kは言います。 「もともと衣服・雑貨部では、地球上で絶滅の危機にある動物たちをモチーフとしたこども用のプリントTシャツを販売し、その売上金の一部をIUCNJ(国際自然保護連合日本委員会)に寄付する取り組みや、布製のマイバッグの販売を行なっていました。その一方で、環境に負荷がかかるプラスチック原料をパッケージに多用するのは矛盾ではないかという声が部内で上がり、この声がパッケージや売場陳列用資材に使用する素材を大きく見直すきっかけとなりました」。そして、衣服・雑貨部では販売数の多い靴下とインナー商品のパッケージが見直しの対象となり、新しいパッケージの開発プロジェクトが動き出しました。
プロジェクトが進む中、2019年に実現したのが靴下やタイツ、レギンス用の陳列用資材の変更でした。それまでプラスチック製だった陳列用フックは再生紙を型抜きしたフックやハンガーへ、靴下を留めるプラスチック製のタグピンは糸へと変更され、付属する資材は燃えるごみとして廃棄可能なものになりました。 「靴下やタイツは陳列用資材の変更のみでしたが、インナー商品はパッケージそのものをゼロからつくることから始まりました。国内外から参考となるパッケージを集めるところから始まったのですが、私たちだけでなく工場にも取引先にもほとんど知見がなく、お互いに知恵を出し合いながら何度も試作を重ねました」と、Y.Kは言います。 単にパッケージを紙製の袋に変更するだけでは、強度や耐久性がなく、商品としての品質を守るためのパッケージの役割に不足が出てしまいます。環境のことも、お客さまのことも考えたパッケージづくりは、ひたすら困難を極めました。 「中の商品が見えやすいように、袋を切り抜いて窓をつけるだけでは耐久性が保てない上に、商品が窓からこぼれおちてしまいます。ですが、窓を小さくしようとすると、今度は商品が全く見えなくなってしまいます。パッケージの耐久性と利便性を両立できる落としどころが見つかるまで、試行錯誤を繰り返す日々でした」。 プロジェクトの開始から2年が経った2020年、内側にラミネート加工を施し、中の商品が見える窓をつけた、紙素材を中心とした新しいパッケージが遂に完成しました。
目に見えない部分でもムダを減らす
新たなパッケージで使用している素材の割合は、紙素材約50%、プラスチック素材が約50%。旧パッケージに比べるとプラスチック原料の使用率は半分以下となりました。陳列には靴下と同じく再生紙でつくられたフックが使われ、店頭に並んだときの姿が大きく変わりましたが、見た目だけでは気づかれにくい部分でも、環境に配慮したさまざまな工夫が行われています。 そのひとつが、それまで形状を保つために入れられていた台紙の撤廃です。工場で商品を折りたたんだ後に抜き出せる補助工具を開発することで、それまでごみとして捨てられていた台紙をなくすことが実現しました。それと同時に行われたのが、パッケージ本体を汎用性の高いものにする工夫でした。
「パッケージ本体の種類が多いと、そのぶん金型を多くつくる必要があり、紙の取り都合も悪くなって原料やコストの面でムダが出てしまいます。そこで、婦人・紳士・こどもでサイズの異なるインナー商品でも兼用できるつくりにして、本体の型を5種類までに抑えました。 また本体には、デメリット表記と呼ばれる使用上の注意を記載することが各国の法律で定められているのですが、販売国ごとに本体をつくるとムダが出てしまいます。そこで各国共通で使えるように、本体には複数の言語での注記を記載してまとめて生産し、販売国ごとに異なる商品情報やバーコードなどはシールを貼って対応するシステムにしました。この共用できる本体の型をつくり、効率良くまとめて生産できるようにしたことも、今回の開発で試行錯誤した部分です」。 新しいパッケージとなったインナー商品は、2020年より店頭に並び始め、旧パッケージ商品との切り替えが計画的に行われていきました。その中で、店舗スタッフから届いた声に驚いたとY.Kは言います。 「店頭でお客さまから直接お声をいただいていることも関係していると思いますが、2021年に良品計画が中期経営計画を発表した頃から、早く新しいパッケージに切り替えてほしいという声が、店舗スタッフから次々と届くようになりました。今も店舗からは、さまざまな声が届いており、店舗で働く皆さんの環境問題やESGに対する意識がより高まっていることを実感しています」。 また、現在も良品計画では、パッケージを必要とする全ての商品を洗い出し、プラスチック原料を中心としたパッケージから再生紙などの代替素材への変更が進められています。その中でY.Kをはじめとする衣服・雑貨部のメンバーは、プラスチック原料の資材をさらに削減する取り組みを続けています。
ものづくりの基本と責任
2021年からは商品タグの留め具を、それまで主流だったプラスチック製のものから紙紐へと切り替えることも始まりました。資材のプラスチック素材の削減が行われる中、さらに進められているのがプラスチック原料を全く使用しない、インナー商品の紙製のパッケージ開発です。
お客さまが安心して持ち帰られる形状にすることが求められるパッケージにおいて、衛生商品であるインナーを袋にいれない、個包装しないことは、食品など多様な商品を同じ店舗で取り扱う無印良品だからこその難しさがあります。だからこそ、「まずは挑戦してみたい」とY.Kは言います。 「試作中のパッケージでは、包材を必要最低限まで減らすことを目指していますが、私たちがどれだけ工夫をしても最終的にはごみとなるものです。新しい取り組みについては賛否両論で様々な声をいただくので、届いた声をもとに改良を重ねていくことが、一番大切だと思っています。 また、店頭に並ぶパッケージ資材の脱プラスチックは今回のプロジェクトのひとつのゴールではありますが、商品の輸送をするときや倉庫で保管をするときに使用されるビニール袋の削減など、まだまだ取り組むべきことは多くあります。包材に限らず、あらゆる過程で発生するごみを削減し、ムダを無くしていくことは、ものをつくる人間として取るべき責任だと考えています。現在では環境に配慮した側面がより注目されるようになりましたが、この考えは無印良品の創業当時から続くものづくりにおける根本だと思います。パッケージを開発するときもそうでしたが、これからもこの根本に何度も立ち返りながら開発を進めていきたいです」。 必要なものを、必要なかたちでお客さまに提供するだけでなく、商品以外の部分でも環境・社会に配慮する良品計画のものづくり。感じ良い暮らしと社会を実現するための取り組みは、まだまだ続きます。