顔の見える地域とつながる取り組み

ともに考え、ともに行動する。
顔の見えるつながりが生む、地域を活性する力

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2021年9月、埼玉県宮代町にオープンした無印良品 東武動物公園駅前。「地域となにかを生み出す場所」をコンセプトに、独自のサービスを展開する店舗は、どのようにして誕生したのか。そのはじまりにあったのは、地域に根ざした店舗づくりを目指す良品計画と、地域に暮らす方々との交流でした。

メンバー

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無印良品 東武動物公園駅前 店長
H.M

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あじまんま 店主
M.A

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蛭田農園
M.H

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宮代町 産業観光課 副課長
K.E

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STORY 01

抜け落ちてしまっていた、町の「顔」

無印良品 東武動物公園駅前のプロジェクトが立ち上がったのは2018年6月。2004年に車両関連工場が廃止された後、長らく未利用だった駅西口の土地の活用を含めた地域活性につながる取り組みができないか、という相談を受けたのがきっかけでした。

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「駅西口は、宮代町の中心部でもあり町の玄関口。町としても、企業などへの働きかけを何度も行なっていました」と話すのは、宮代町役場のK.Eさん。「西口を改修してロータリーを設置する区画整備の計画が上がり、完成に合わせて病院の誘致なども行ったのですがうまく進まず、さまざまな話が浮かんでは消えていく状態が長く続いていました。2015年のロータリー完成後も敷地が手付かずの状態だったため、町民の方々から厳しい声をいただくこともありました」 高度経済成長期には東京のベッドタウンとして発展したものの、現在の宮代町には幹線道路がなく、用事のある人だけが町を訪れるような状態。そのため、国道が通っている隣町の杉戸町と比べると、特に駅西口の周辺は商業施設が少なく、閑散とした場所となっていました。また、町や地域に暮らす人々の魅力を伝える情報を自治体として積極的に発信しつつも、町と直接のつながりを持たない人たちまでには、情報を届けきれずにいました。 2018年当時、埼玉の別地域に暮らしていたH.Mも、宮代町については東武動物公園がある町という漠然とした印象しかなかったと言います。しかし、ソーシャルグッド事業部や店舗開発部(現・チャネル開発部)のメンバーで構成されたプロジェクトチームが宮代町で行なった活動や、H.M自身もプロジェクトに関わったことをきっかけに、町の魅力や個性、そして地域として抱えていた課題が浮き彫りになっていきました。

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STORY 02

町とつながる中で見えてきた、魅力と課題

地域に根ざした店舗づくりを目指す上で、プロジェクトは出店の検討段階から、従来の店舗開発とは異なるかたちが取られました。その中で先立って行われたのが、プロジェクトチームのメンバーが宮代町を実際に訪れ、地域の方々とのつながりを築くことでした。 メンバーと町役場をつなぐ窓口になったK.Eさんは、これまで駅西口の開発が思うように進まなかった経緯もあり「最初お話をいただいたときは、正直“本当かな?”と思っていました」と言います。しかし、ほどなくして、その印象は一変します。

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「宮代町には市民ガイドクラブを設立した方をはじめ、町のキープレーヤーとして活躍する方々がいるのですが、気がついたらメンバーの皆さんはキープレーヤーの方々と顔見知りになり、彼らに町の案内をしてもらっていました。私がお会いしてからわずか3回目で、町の長所について話し合うワークショップが開催されたときには、良品計画が本気でまちづくりに取り組もうとしていることが伝わってきました。また、宮代町は外部からの刺激を受けながら、少しずつ進展してきた素地がある町なので、また外から良い刺激が来たのではないか、という期待も感じました。」 K.Eさんをはじめとする町役場の方々とメンバーが月に一度の頻度で顔を合わせる中、宮代町のまちづくりに携わる人々の間でも、良品計画の取り組みについての話題が自然と広まっていきました。 有用微生物を活用した農法で野菜を栽培する『蛭田農園』のM.Hさんも、話題を耳にしていた一人です。「私自身もまちづくりに関わる仕事をしていたのですが、長く暮らしていると町の魅力に気づきにくいこともあり、外から企業が入ってくることに対しては期待が大きかったです。またヒアリングにしても、こちらに歩み寄りながら行ってくださったのが印象的でした。」 駅西口から徒歩10分ほどの場所に位置する観光農園『新しい村』の工房で、宮代産農産物を使ったお弁当の販売やケータリングを手がける『あじまんま』店主のM.Aさんも「町を良くしたいと考えている人が町内には多いものの、どうしても閉塞感のようなものが生まれているのを感じていました。なので、私も外から企業が入ることで、何かが変わるのではないかという期待が大きかったです」と、良品計画が町に介入することを前向きに捉えていたと話します。

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その一方で、懸念する点もあったと言います。「駅前から少し離れた場所で商売をしている身としては、盛り上がりや人の流れが駅前で止まってしまうことが心配でした。なので、メンバーの方々には、人の流れを駅前から町の中にある店へとつないでほしいという要望を伝えていました。同時に、私たち自身も駅前から足を運んでもらうきっかけとなる新たな魅力をつくらなければと、心配が奮起の材料になりました」 地域に暮らす方々の期待と不安が入り混じる中、2020年8月から3カ月間にわたって宮代町で開催されたのが、社内研修プログラム「暮らしの編集学校(以下、編集学校)」。開催にあたり、H.Mを含む良品計画メンバー、プロジェクトのパートナー企業である東武鉄道株式会社と株式会社東武ストア、宮代町役場から計22名の参加者が集いました。 「編集学校とは“「最良の生活者を探求する」無印良品の感性をもち、地域の暮らしと社会を結び付け、「暮らしの編集者」を育成する”ことを目的とした研修で、これまで岐阜県・柳ケ瀬、山形県・酒田、新潟県・直江津で開催されてきました。今回の編集学校は、過去の3地域で行われたものとは異なり、ある程度の店舗設計が決まった段階での開催でした。宮代町の魅力と課題について、参加者それぞれの視点で話し合いながら、町をどう育てていくかを具体的に考える3カ月間となりました」と、H.Mは言います。 「町としての魅力や地域資源はたくさんあるのに、それらを観光資源として活用し循環することができていない課題を、いかに解決していくか。また、個人事業を行なっている方が多く、大きな商業施設やファミリーレストランがない町の中で継続的な循環を生み出すには、どのような取り組みを行うべきか。それぞれの課題を深く掘り下げながら、事業プランを練り上げていきました」 編集学校の中で立案された事業プランは発表後、検証に移され、無印良品としては初となる取り組みが生まれるきっかけとなっていきました。

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STORY 03

地域経済の循環をサポートする、新たな取り組み

そして2021年9月16日にオープンを迎えた、無印良品 東武動物公園駅前。オープン前日に地域の方々を対象に行われたプレオープンには約1,200名のお客さまが来店し、オープン当日も開店前からお客さまが列を作るほどの大盛況となりました。その様子を見たK.Eさんは「長年更地だった状態を知っているからこそ、感慨深いものがありました」と言います。 店舗前にある芝生広場「みんなの広場」で、月例マルシェを出店したM.AさんとM.Hさんも変化を感じたと言います。「マルシェの常連のお客さまよりも、無印良品や隣接する東武ストアでの買い物帰りに立ち寄ってくださる方々が多かったです。年齢層も若い方や年配の方に偏らず、幅広かった印象があります」とM.Aさん。「中には電車で30分ほどかかる草加から来たと、楽しそうに話される方もいました。夕方になり、学生さんたちが集まってくる様子には、私が若い頃にもこんな場所があったら良かったな、と羨ましくなりましたね」とM.Hさん。

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また、編集学校で立案された事業プランから生まれたサービスも開始されました。地域の情報を収集し、発信する拠点となる「まちの案内所」や、世代間交流が行われることを目指し、誰もが自由に利用できるレンタルスペース「Open MUJI 学び舎」、そして無印良品としては初の試みとなるシェアキッチン「みんなの台所」の3つです。 飲食店が一日単位で出店できるだけでなく、飲食店営業・菓子製造の許可申請に必要な設備も整えた「みんなの台所」がつくられた経緯について、「編集学校の中で出たのが、町の循環を生み出すにあたり、地域のあちこちで商いを行う人を増やしていくことが大切ではないかという意見でした」と、H.Mは語ります。 「既存のシェアキッチンの多くは郊外にあるのですが、駅前という多くのお客さまが訪れる店内に設けることで、出店者がファンを獲得するきっかけの場になると想定しています。また、創業支援を行い、宮代町に店舗を構えて商いをする人を増やすことで、これから町の課題になるであろう空き地や空き家についても、ゆくゆくは良品計画が持っている空間事業などのコンテンツを生かしながら解決していきたいと考えています」と、事業の芽を増やすだけでなく、その先のことも見据えた上での取り組みであることを明かします。 オープン後、平日には近隣に住んでいる地域の方々、土日には東武動物公園へ来園されるお客さまも多く訪れ、賑わいを見せている無印良品 東武動物公園駅前。しかし、「今はもう一歩踏み込んで、地域の皆さんと色々と考えていかなきゃいけない段階。むしろ、これから行わなければいけないことのほうが多いと感じています」と、H.Mは言います。

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STORY 04

地域とともに成長できる店舗を目指して

「地域となにかを生み出す場所」となる店舗を目指す中で、まず店舗としての地盤を固めたいとH.Mは言います。 「お客さまや地域の方々から求められているのは、店舗が10年、20年と続くことだと感じていますし、そこは僕たちとしても目指したいところです。地域の皆さんだからできることと、良品計画だからできることを掛け合わせながら、新しい価値を生み出すのが理想だと考えていますが、そのためにはしっかりとした拠点となる店舗が必要です。オープンした直後だけ勢いが良く、だんだん尻すぼみになってしまわないためにも、まず一年目は店舗の地盤をつくる。その上で、地域の皆さんと協力をしながら、店外の活動にも取り組んでいきたいと考えています」

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H.Mの考えに、M.AさんとM.Hさんも店舗の取り組みが「細く長く続いてほしい」と口を揃えます。「勢いがありながらも短命で終わってしまうのは、取り組みのかたちとして一番良くないと私たちも思います。あと、マルシェの出店をするにあたり、H.Mさんを通して良品計画と対等なやりとりができたことも、とても良かったと感じています。今後もこの良い関係性を保ちながら、次のステップへと進んでいきたいです」 今後も地域の課題に対して、積極的に取り組んでいきたいと話すH.Mですが、「僕としては良品計画が課題を解決するというよりは、地域の方々とお互いに助け合いながら課題に向き合っていくという感覚です」と、言います。 「町に暮らしている方々とお話をしていると、僕たちのほうが学ぶことが多いですし、地域と何かを生み出すことにしても、僕たちだけでは何もできません。地域の皆さんと店舗の僕たちが切磋琢磨し、お互いを高め合っていける関係性を目指しながら、今後も地域の方々とつながっていきたいです」 宮代町に暮らす方々と良品計画メンバーとの、顔の見える交流から生まれた無印良品 東武動物公園駅前。地域の方々と手を取り合い、ともに行動しながら「感じ良い暮らしと社会」を実現する取り組みは、これからも続いていきます。

※掲載内容は取材当時のものです