PROJECT:タオルの商品開発 さまざまな暮らしに寄り添える
価値のあるタオルをつくるために

毎日使っても何度洗っても、使い心地の良さが長持ちすることを目指し開発されている無印良品のタオル。暮らしを支える日用品として、より役に立つ存在となるように、2021年に大きな見直しが行われました。その根底には生活者視点で考える、良品計画の思想が息づいていました。

MEMBER

  • 橋本 武也

    橋本 武也 生活雑貨部 ファブリック・グリーン・IDEE担当

※組織名称は2021年9月1日のもので掲載しています。

STORY/01

長く使われ続けるタオルを目指して

 手洗い後に手を拭いたり、入浴後に体を拭いたりと、タオルは暮らしのさまざまな場面で活躍する日用品のひとつです。無印良品においても1982年に発売したホテル仕様のフェイスタオルにはじまり、タオルは無印良品の誕生初期から取り扱っている商品です。

 パイル織りのタオルは、生地の厚みは厚手・中厚手・薄手の3種類から、サイズはハンドタオル・フェイスタオル・スモールバスタオル・バスタオルの4種類から選べるかたちとなっています。お客様が3種類の厚みからタオルを選べる品揃えになったのは、2017年に行われたリニューアルがきっかけでした。

 このリニューアルが行われた背景について、「十人十色の使われ方があるタオルの種類を、つくり手である私たちが一方的にまとめてしまうのは良くないのではないかという考えが社内にありました」と、橋本は言います。

 「タオルを選ぶ際、何を基準とされるかは人それぞれです。使い勝手や用途を基準に選ぶ方もいれば、拭き心地で選ぶ方もいますし、ご家族で暮らしている方の場合は洗濯のしやすさで選ばれたりもします。使う目的や好みに合わせて、お客様に選んでいただける品揃えにしようと行われたのが2017年のリニューアルでした。

 お客様の暮らしに役立つタオルを開発するにあたり行なったのが、市場調査です。場合によっては、ご協力いただいた方々の家の中まで入り、生活の中でタオルがどのように使われているかを調査しました」。

 さらに行われたのが、くりかえし使ってもへたりにくく、しなやかな風合いを長続きさせるための製造上の工夫でした。耐久性のある丈夫な糸づくりに始まり、弾力のある生地に織り上げるために、糸の太さ・密度・パイルの長さを微細に調整しながら、最適なバランスを追求するという地道な開発が続きました。

 「基本的にタオルは毎日使われるもので、使い終わったら洗濯をされます。そして洗濯をすればするほど、必ず傷んでいきます。でも、使う側の視点で見たとき、少しでも長く柔らかさや吸水性の良さが保たれたほうが嬉しいと考え、品質面の改良を行いました。店頭に並んでいるのは最終的に完成したタオルですが、その品質にいたるまでは膨大な数の試作が行われました」。

 完成した3種類の厚みから選べるようになったパイル織りタオルは、多くのお客様からご好評をいただき、開発した製法を生かしたタオルケットやバスローブも販売されました。そしてリニューアルからおよそ4年が経った2021年、より多くのお客様が手に取りやすい日用品となることを目指し、見直しが行われることになりました。

STORY/02

生活者の使い勝手を考えて

 2021年の見直しで大きく変更したことのひとつが、タオルの価格でした。それまでは厚みとサイズごとに異なっていた価格を、使い心地に応じて選べるように、サイズが同じであれば厚みが異なっていても同価格に設定することにしました。

 「マーケティングの視点で市場全体を見ると、無印良品のタオルの価格帯は決して安いものではありません。今後、良品計画としてより多くの地域で商いを行なっていくことを考えると、いくら品質が高くても、お客様が手に取りにくい価格では需要がなくなると判断し、思い切って価格を変えました。新しい価格を設定するにあたっては、日本だけでなくアメリカなど海外における市場の価格も調査しました」と、橋本は言います。

「価格が安くても、厚手のタオルの性質が、使われる方の生活スタイルに合っていなければ、日用品としての価値は生まれません。厚みが異なっていても価格が同じことをお客様にご理解いただけるかどうか、特に薄手のタオルについては、“もっと安くできるのではないか?”という声をいただいてしまわないかという不安が正直ありました。でも、蓋を開けてみたら、薄手の商品も多くのお客様が手にとってくださり、心配は杞憂に過ぎませんでした。お客様がものモノの価値で商品を選んでくださっていることが分かったのは、つくる側としては実に嬉しい出来事でした」。

STORY/03

暮らしの変化にあわせた見直し

 また、価格だけでなく品質面も大きく見直したと橋本は言います。「品質は、厚手のタオルを大きく変えました。それまでの厚手タオルもパイルを長くし、柔らかさを持たせていたのですが、今回の見直しではMUJI HOTELで使用しているタオルと同規格の、ホテル仕様の厚手タオルにしました」。なぜ家庭用のタオルをホテル仕様にしたのか。その背景には、ライフスタイルの変化がありました。

 「日本の多くの家庭では洗濯物を天日干ししているのですが、厚手のタオルはパイルが長いぶん吸水性が高いので、天日干しでは乾きにくいという欠点があります。しかし、ここ数年ではタンブル乾燥機能がついた洗濯機を使われるご家庭が増えています。

 このタンブル乾燥ですが、洗濯物を短時間で乾かせる反面、天日干しよりも繊維を傷めやすいという特性があります。厚みのないタオルほどタンブル乾燥にかけるとどんどん傷んでしまい、ものとして早くだめになってしまう傾向にあります。しかし、乾燥機にかけることを前提につくられた厚手のホテル仕様のタオルは、タンブル乾燥にかけても傷みにくく、長持ちします。今後、乾燥機を使われるご家庭が増えることを見越し、厚手タオルをより丈夫なホテル仕様へと変更しました」。

 また、今回の見直しによって、全てのパイル織りタオルがオーガニックコットン100%となったのも変化のひとつでした。「以前のタオルでは、しなやかさを出すために使う特殊な糸を混ぜる必要があり、100%オーガニックコットンを使うことができませんでした。今回の見直しでは、繊維の長いオーガニックコットンを素材に選ぶことで、品質を保ちつつ、原料をオーガニックコットン100%へと切り替えることができました」。

 この見直しによって、使う人だけでなく、つくる人のことも考えたタオルづくりが実現しました。しかし、より多くのお客様に役立つタオルになるように考えていることがあると橋本は言います。

STORY/04

生活者の暮らしに適したタオルにするために

 今後、挑戦したいと考えている取り組みのひとつが、タオルの色を増やすことだと橋本は言います。「例えば4人家族の場合は4人それぞれで色分けするなど、どれが誰のタオルか一目でわかるようにしているご家庭が多いです。それでも無印良品では、これまで白のタオルの売れ行きが断トツで良かったのですが、今回見直したタオルでは、ライトグレーのものが一番売れるという予想外のことが起きました。お客様の反応や、ご家庭で使われる際のニーズをふまえ、2022年秋冬に発売するタオルでは無印良品らしく(華美ではない)バランスを取りつつ、カラーバリエーションを増やしたいと考えています」。

 また、タオルのリサイクルについては、「回収した綿製品を再生コットンへとリサイクルする技術は現時点ではいくつかあるのですが、それぞれに長所と短所がある状態です」と、橋本は話します。

 「再生コットンは毛羽が立ちやすいなど、タオルの素材として使うには難しい特長があります。以前に開発した再生コットン入りタオルでも、原料全体のうち少ししか使うことができませんでした。今後、より高品質な再生コットンがつくれる技術が確立されたら、開発に取り入れていきたいとは考えています。

 無印良品には、使い古した後、別の用途に再利用しやすいように裁断用のラインを入れた『その次があるタオル』という商品があります。最後までタオルをムダにせずに使ってほしいという良品計画の考えをお客様に伝える一つのかたちとして、2008年の発売以来、商品として残し続けています。

 その昔、特に日本で製造されるタオルの大半は、お中元やお歳暮といったギフト需要に対応するためにつくられていて、タオルは“買う”ものではなく“もらう”ものでした。箱に入れられたまま家の片隅で死蔵されたタオルや、本当は必要がないのに製造されていたタオルが、その当時は大量にあったと思います。そう考えると、使う方がご自身の暮らしに適したタオルを選んで買い、毎日使うことが定着したことそのものが、社会にとって良いことだと私は感じています。このライフスタイルの中で、無印良品のタオルが暮らしに役立つ存在となるように、これからもさまざまなことに取り組んでいきたいです」。

 生活者視点で使い勝手を考え、暮らしに適した品質に仕上げた商品こそ、長く使われ結果的にムダを生みません。より多くの生活者に暮らしに欠かせない日用品を提供できるよう、良品計画のものづくりはこれからも続いていきます。