MUJI BUSINESS CAMP WEEK - MUJIの『働く』を知る1週間 - 2020年12月17日(木) コロナ禍でのマスク開発。販売までの異例のスピードを実現させた開発者の想いとは。

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2020年12月14日(月)~17日(木)の4日間、良品計画では様々なテーマについて社員が語るイベント「MUJI BUSINESS CAMP WEEK-MUJIの『働く』を知る1週間-」を開催。“MUJIの商品開発”というテーマの中では、コロナ禍において人々の必需品となったマスクの開発に携わった井上さんに語っていただきます。
*進行役:澤部 佳奈(人事総務部 組織・人材開発課)

イベント登壇者

  • 井上 哲

    井上 哲

    2011年新卒入社
    衣服・雑貨部インナー・雑貨MD担当インナーMD担当

    2011年入社。無印良品 新宿、無印良品 アミュプラザ鹿児島、無印良品 天神大名にて店舗社員として勤務後、2015年より無印良品 モレラ岐阜の店長に就任。2019年より衣服・雑貨部DB数値担当に就任し、現在はインナー・雑貨MD担当インナーMD担当として勤務。

※組織名称は2021年2月1日時点のもので掲載しています。

1100人以上の想いが詰まったマスク

澤部:

井上さん、今日はよろしくお願いします。さっそく本題に入る前に、まずは井上さんが良品計画へ入社されたきっかけについて教えてください。

井上:

井上 哲

はい。僕が就職活動をしていた時期はいわゆる就職氷河期時代でした。頭よりも体で感じることが多かった私は、このままでは本当にまずいと思い100社以上受けました。そんな中でなぜ良品計画に決めたのかというと、人事の人と話す中で「あなたの人生なんだからしっかりと考えて、これから自分の進むべき道を決めなきゃダメだよ」と言ってくれているように感じたんですよね。これが入社を決めた大きな理由です。あとは半分冗談みたいなものですが…私は無印良品で買い物をすることがもともと好きだったのですが、何度かお店のスタッフに間違われた事がありました。もしかしたらこれは向いているのかなと思った、というのもあります。

澤部:

そうだったんですね。今日参加してくれている学生の方からも「無印良品で店員さんに間違われる人を私も見たことがあります」というコメントが来ています。
入社の後は、様々なことを経験されていますね。

井上:

井上 哲

入社当時から夢だった仕事

はい。最初は2011年無印良品 新宿という店舗に配属されました。初めての一人暮らしと初めての社会人生活で、本当にもう毎日が目まぐるしく…。覚えることとやらなきゃいけないことの日々で、あっという間に時間が過ぎていったのを覚えています。何年間かは店舗を経験し、無印良品 モレラ岐阜という店舗で初めて店長として勤務をしました。店長の時も右も左も分からない状態だったのですが、「自分がこの店舗の責任者なんだからしっかりしなきゃ」という気持ちと、自分が思う方向にみんなを引っ張っていけた経験がすごく貴重だったと思っています。そして2019年には衣服・雑貨部DB数値担当というところに着任になりました。その後、今は衣服・雑貨部インナー雑貨MD担当、インナーMD担当として勤務しています。

実は私は、入社してからずっと衣服・雑貨部に行きたいと声を上げていたんです。社内の自己申告という制度で毎度申告をしていました。多分それで呼んでもらえたのかなと思っています。なので、今は楽しく働かせてもらっています。今日は皆さんに、私が今仕事をしているMDが実際どういうことをする人なのか、またそれを通して無印良品の商品を企画する、商品を作るというのはどういったものなのかというのをお伝えできたらなと思います。

MDの業務は大きく分けて3つあります。1つ目は数値の分析です。売上金額、販売数、在庫数、今後の販売などを分析しています。2つ目は、分析した結果やお客様のレビューをもとに商品の企画をしていく業務です。例えば私が担当している肌着で言うと、お客様の声や実際の売上を見て「ここはもっと伸ばせる、ここをもっと変えたらいいんじゃないか」というのを日々やっています。3つ目は、それらの検証。検証を繰り返すことで企画を着地させていきます。MDになって約1年半が経ちますが、初めて自分の商品が売場に並んだ時は、「自分が携わったものがこういうふうに店舗に並ぶんだな」というのを感慨深く思いました。

表:井上哲さんの週間スケジュール

井上:

井上 哲

商品開発の1週間の流れとは

一例ですが1週間の流れを記載させてもらいました。1番忙しいのは月曜日です。前週の日曜日までの売上データが一気に集まってきますので、分析を行って売上の報告をします。他にも店舗の人たちとミーティングをしながら振り返りをします。木曜日と金曜日は商談をしていることが多いです。実際に商品企画をした商品の進捗を、取引先の方と確認しています。あとはモニタリング結果の共有もしていますね。例えば、紳士のボクサーパンツのわきの丈は本当にこの長さでいいのか、という議論。大の大人が5、6人集まり、真剣な顔で話しています。私のデスクにパンツがたくさん並んでいるのですが、周りから見たら異様な光景かもしれません。でも本人たちは真剣で、一生懸命にああでもない、こうでもない、と話しながらやっています。

井上:

井上 哲

コロナによって日用必需品となったマスク

商品開発のプロセスについては、今日のテーマでもあるマスクを例にとって話をしたいと思います。まず開発に至った背景ですが、コロナの影響でマスクが足りなくなってしまうという中、無印良品としてお客様に安心して使っていただける、使い捨てじゃないものを届けたい、と思ったのが始まりでした。企画をスタートさせたのが2020年の2月くらいです。通常の商品は約1年半をかけて企画します。しかしマスクは3ヶ月で企画から販売まで行いました。異例のスピードです。紐の長さはこれでいいのか、鼻の部分はこれでいいのか、着用の向きはこれでいいのかなど、議論を重ねました。モニタリングの段階は、ちょうど緊急事態宣言が出ていた頃で、社内にほとんど人がおらず、ほぼ会話をしたことがない人にもモニタリングをお願いして検証し続けたのを覚えています。それと並行して行ったのが試験出しです。マスクに抗菌加工を施しているのですが、抗菌防臭の試験出しと洗濯耐久性の試験出しというものを並行して行いました。お客様に安心して使っていただくにはそういった裏付けがないといけないので、しっかり実施しました。

図:マスクの企画スタートからリスクアセスメントまでの流れ

井上:

井上 哲

このマスクは「繰り返し使える2枚組3層マスク」という商品名ですが、この名前も悩みました。商品名を考えるのはMDの役目なのですが、その商品を象徴するのにふさわしい名前は何だろうということを考えます。あと、悩んだのは「理由(わけ)」ですね。無印良品の商品のタグの中には、無印良品の理由というものを付けています。マスクは「このマスクには、表地に抗菌を施して、飛沫防止用に作りました」と書かれているのですが、この理由が本当にきちんと伝わるのか、様々なことを考えて決めました。マスク以外にも商品1つひとつに色々な理由が書かれているので、ぜひ店舗に行った際は見てみてください。その後は商品情報を登録していきます。実はこれは結構大変な業務で、その商品の生産地や価格など、商品に関わる情報を1つひとつ登録していきます。続いては発注の登録。シミュレーションをした上でどれぐらい発注する必要があるのか、というのを登録します。

井上:

井上 哲

商品開発には、100人以上もの人が関わる

まだあります。リスクアセスメントですね。品質保証部という部署と一緒に、本当に安心してお客様に提供できる商品なのかということを確認していきます。こうして商品が出来上がっていくのですが、実はまだ終わりではありません。その後は例えばネットストアや店舗と連動し、POPの作成依頼や販売計画を行います。

図:マスクの販売計画から次期商品企画までの流れ

井上:

井上 哲

こういった工程を経て、やっと店頭で販売ができます。ここまでが3ヶ月でした。本当だと1年半かかるのを3ヶ月でやったので、夢にまでマスクが出てくるぐらい、とにかくマスクのことをずっと考えていました。コロナ禍でどうしても必要になる方が多かった商品なので、一概に喜んではいけないんだろうなとは思っていますが、半年間でマスクが1番の売上を取ることができました。嬉しかったですね。マスクに限らず、1つの商品が出来上がるまでにたくさんの人たちの協力があります。自分1人だと本当に何もできなくて、色々な人に思いを伝え、そして受け止めながら出来上がっていきます。だからこそ、本当に嬉しかったです。

澤部:

ありがとうございます。ちなみに、商品ができるまでにだいたいどれぐらいの人が関わっているのでしょうか。

井上:

井上 哲

人数で言ったら100人以上は携わっていると思いますね。本当にいろんな部署の人が協力してくださり、1つのものが出来上がっています。

澤部:

すごいですね。コメントでも「開発されたマスクで、肌荒れが治まりました」というコメントが来ています。

井上:

井上 哲

本当ですか。ありがとうございます。

2原動力は「こんなものを作ってみたい」という自分自身の想い

井上:

井上 哲

ここからは、商品企画という仕事の良さや大切にしていることについてお話しできればと思います。まず大変だと思うことから。漠然とした言い方ですが、全部大変です。ダイレクトにダメ出しをもらうこともたくさんありますし、何より結果が数字で見えます。全然売れない、お客様からの反応が得られていないというときはプレッシャーも感じます。でも、実際に企画して商品としてお店に並ぶのを見る時は、大変だった分「この商品は、自分が携わって作ったんだ」と思うことはあります。

井上:

井上 哲

仕事のベースにあるのは店舗での経験

あと、店舗の経験で活きていることはなんですかと聞かれることがあるのですが、それも全部だと思っています。店舗から本部へ異動した人の1番の強みは、最後にお客様に届く実際の姿を見ていることだと思うんですね。店舗を経験したからこそ、「こういうふうにしたら伝わるのにな」とか「こういうことをやっていきたいな」というのを考えることができるのは強みだと思っています。

澤部:

ありがとうございます。井上さんが商品を開発するうえで、1番大切にしていることはありますか?

井上:

井上 哲

「これを商品化するんだ」という想いは大切にしています。ちょっと体育系の気質があるので、どうしても気持ちとか想いとか言ってしまいがちなのですが…やっぱり、「この商品を作ったら絶対にお客様に喜んでもらえるんだ」という気持ちがないと作れないと思います。

澤部:

なるほど。ちなみにさっき「理由(わけ)」についてのお話がありましたが、理由を考える際に、心掛けていることはありますか。

井上:

井上 哲

「あたたかい」と「温かい」

言葉の使い方は非常に気を付けています。例えば「あたたかい」という言葉も、「温かい」がいいのか、「あたたかい」がいいのか、どうしたらお客様により伝わるのかというのを考えたりします。ひらがなの方が本当にあたたかい気持ちになるから、ひらがなの方がいいよねとか。あとは「におい」とかも。「ニオイ」だとちょっときつく感じるから、「におい」がいいよねとか、そういったことを考えたりします。

澤部:

理由を考えるのにも、そんな裏側があるんですね。井上さん、ありがとうございました。最後に学生へのメッセージをお願いします。

偉そうだけど3つ(きれいごとに聞こえると思うけど) ・自分の人生だからたくさん悩んでほしい。・ポジティブな気持ちを忘れないでほしい。・楽しんでほしい。

井上:

井上 哲

自分の人生だから、自分で悩み自分で楽しむ

井上:偉そうですが、就職活動だけでなくこれから生きていく上での3つのメッセージをお伝えしたいと思います。1つ目は、自分の人生だからたくさん悩んでほしいと思っています。「あの時こうしたら良かったな」と思うことが私もたくさんあるのですが、悩んで決めた事ってある程度納得して決めたことだから、後で振り返った時に、多分どこかで糧になっているのではないかなと思っています。
2つ目が、ポジティブな気持ちを忘れないでほしいです。私自身、マスクを作る上で何度も心が折れました。「こうじゃないだろ!」「もっとこうしたらいいんじゃないか」と言われ、「もうどうしたらいいんだ…」と。だけど、これをお客様にちゃんと届けるんだというポジティブな気持ちを忘れなかったから、なんとか作ることができたと思っています。
最後は、楽しんでほしいです。仮に定年まで働くとしたら、人生の3分の2以上が仕事をしていることになります。その仕事がつまらないものだったら、なかなか不幸なことだと思います。だからこそ、僕は仕事を楽しむってことを忘れないでほしいと思います。今楽しんで仕事ができているから、これだけ気持ちを込めて商品開発ができていると思うし、これだけしっかりとお客様に届けたいと思うこともできていると思います。みなさんも、楽しむという気持ちは絶対に忘れないでやってもらいたいなと思っています。

今コロナで大変な世の中ですので、就職活動をするにあたってネガティブなことを言われたりすることが多いと思うんですね。私自身の就職活動もリーマンショックで就職自体が厳しいと言われた時代だったので、重なる部分はあるかと思います。そんな中でも、心のどこかで楽しむ気持ちを忘れないでほしいなと思います。自分の人生だから自分で責任を持たなきゃいけないと思いますが、今の状況を楽しんだり、一生懸命やるぞという気持ちが僕は何よりも大事だって思っているし、これからも多分思っていくんじゃないかなと思います。
みなさんにもぜひ、大変な時かもしれないけれど、前向いて楽しむ気持ちを忘れないでやってもらいたいと思います。本当に応援しています。

澤部:

井上さん、ありがとうございました。