無印良品の未来は、
店舗に立たないと見えっこない。

無印良品 食品部 食と農担当カテゴリーマネージャー 榊 かおる

農業大学を卒業後に青果市場に就職。2013年に良品計画へキャリア入社。無印良品 セレオ八王子、丸井吉祥寺店 無印良品を経て、無印良品 吉祥寺ロフト、無印良品 三軒茶屋で店長を経験。旗艦店となる無印良品 銀座の1Fフロアマネージャーを経て、2020年から食品部へ異動。現在は食と農という領域での商品・事業の企画を手がけている。

川上から川下まで農業を経験したい。
青果市場の営業から、未経験の小売業へ転職。

大学時代に200種類の樹木を見分けないと単位が貰えないようなマニアックな授業があったんです。農業大学の学生とはいえ、みんな覚えるのに四苦八苦。もちろん私も苦労していました。でも、四年生の時にたまたま取った熱帯果樹学という授業で出てきた「果物の品種」はどれも一発で覚えられたのです。「これが天職だ!」と思って就職したのが、東京都にある青果卸売市場。
生産者から届く野菜や果物を、仲卸やスーパーに販売する際に、バイヤーさんに情報を伝え需要と供給を上手くマッチさせる営業のような仕事をしていました。青果市場の仕事自体は、自分の興味ともハマっていて、とても面白く働いていました。ただ、当時の自分がいた部署に期待されていたミッションは営業活動によって青果流通の新しい道を切り拓くこと。そのためには、いまと違う世界に足を踏み入れて、もっと自分の視野を広げる必要があると感じていました。一度外に出て力をつけてからこの業界に戻って来ようと考え、仕事を辞めて地元の農家で収穫のアルバイトをしながら転職活動をはじめました。前職を辞める前は仕事の引き継ぎや、自分がいなくなった後の体制構築をやっていたので、転職活動は退職してからのスタートでした。今考えると、実はすごいノープラン(笑)。
転職の軸は、農業に役立つ仕事で、かつ、「川下」の仕事がしたいということ。農業のことや卸売のことは経験しているので、「川上」と「川中」はある程度わかる。次は川下である小売や販売が希望でした。異業種から未経験領域への転職活動でしたが、転職エージェントの方に紹介されたのが良品計画でした。

全てに売る意味がある。
ここにしかないものを売れる強み。

10年ぶりのキャリア採用だったらしく、本当に運良く入社できて、同期も7人ほどいました。配属された店舗は無印良品 セレオ八王子。実は入社前から客として通っていた店舗で、食の売場の広さや、生活雑貨や衣服雑貨も合わせて暮らしの総合提案をしている売場があって、気になっていた店舗でした。
本社での研修などを経て3ヶ月ほどで、店舗の食品部門の責任者になったのですが、初めての小売の仕事は思っていた以上にハードでした。カテゴリが広いが故に、覚えることがとにかく多い。食品の賞味期限の点検から、家具の配送まで、食品・衣服・生活雑貨のそれぞれにオペレーションがあり、まずはそれを覚えないといけない。青果市場ではバイヤーの一人ひとりに対応していれば良かったけど、無印良品のお店では、何百人のお客様に対応していく。覚える量も、仕事のリズムも全く変わりました。
一方で、無印良品の商品は全てプライベートブランドだからこそ、ここにしかないものを売れる強みがあることも実感しました。一つひとつの商品に、なぜそれを作っているのかストーリーがある、すべての商品に売る意味がある、それは唯一無二の強みです。
その後、食品担当になってから半年で、次は衣服の担当責任者に。目まぐるしい変化に、初めてのことだらけでしたが、「まずは一回やってみる」というのが私のモットー。そして、やったら意外と楽しかったんです。衣料品は気温にあわせて毎日売場を変えた方が売れる、生鮮品と同じくらい、季節や温度に合わせて変化させることを知りました。

一人では何もできない。
チームで大きなことを達成する経験。

一人では何もできない、ということを、この仕事を通じて本当に実感しています。
2店舗目の丸井吉祥寺店 無印良品は、前店と比べて面積が2.5倍、スタッフ数は3倍、売上も2倍以上。外国人スタッフ、学生、ベテランなど価値観の違う多様なスタッフを副店長としてマネジメントしていく必要がありました。心掛けたのは、一旦すべての価値観を受け止めること。多様な人たちが働けば、当然、意見の食い違いや多少の不満がでてくるもの。そうした様々な発言を一旦ちゃんと聞いてみる。そして、その発言の裏にある真意は何かと考えてみる。そこに、問題解決の糸口は必ずあります。店舗を運営していくには、スタッフの力を活かし、いいチームを作るしかありませんから。
無印良品 吉祥寺ロフトで店長になった時は、目標から逆算して、施策の優先順位をつけ、リソースを計算して、個々のスタッフが一番輝く配置とオペレーションを考える、いわゆるサッカーの監督のような仕事の面白さにも気づけました。もっとも、店長になって最初の半年はまったくダメダメで、店舗の目標と行動計画が全然結びついていないことを、上司に厳しく指摘されていました。「スタッフの力を活かすだけでなく、どうやったら成果につながる方向にみんなの力を活かせるのか?」「どうしたらスタッフが良い店づくりのために自律的・能動的に行動できる環境がつくれるのか?」ということが、上司からの問いであり、店長ってそういう仕事だよ、というのを教えられた気がします。
旗艦店である無印良品 銀座での立ち上げに、1Fのフロアマネージャーという立場で携わった時もそうでした。売場開発部門や商品部、販促部門に人事、IT部門まで、全部署の人たちが協力して一つのものを作り上げる、その時のフロアでの旗ふり役が私です。店舗のTOPである執行役員など、視座の高い人と行う店舗運営は、私自身の視座を引き上げる機会にもなりました。
一緒に働くスタッフ、会社の他の部署にいる社員たち、アドバイスをくれる上司、社外の取引先や関係者、振り返ってみると自分一人で大きな達成は絶対にできない、チームで力をあわせるということの意味を、いろいろな角度から経験したのだと思います。

キャパが溢れ、どん底の1ヶ月。
上司に伝えた「もう無理です」。

2020年から食品部へ異動しました。最初の2年は菓子の食品開発担当で、約半年の引き継ぎ期間を経て独り立ちしました。でも、仕事の全部を一人でやってみると、めちゃくちゃ大変。本部はスペシャリストの方も多く、個人で完結できる仕事も多いので、誰に頼ったらいいか、どうやって周囲と協働するか、仕事の仕方がわからずに抱え込みすぎて、完全に仕事に溺れていました。どうやっても仕事のメリハリがつかず、気持ちのコントロールもできないまま1ヶ月ぐらい暗い気持ちで仕事を続けて、沈没寸前。ついに上司に「もう無理です」と打ち明けました。
そうしたら、同僚と上司がすごく助けてくれたんです。あれ?なんで私一人で抱えてたんだろ、なんでもっと早く言わなかったんだろうと。ちょうどコロナ禍で、お互いの仕事ぶりがなかなか目に見えない時期だったことも影響していたと思いますが、自分ができてないことを、ちゃんと周りに開示してなかったんだ、自己開示して発信していくのってやっぱり大事なんだ!と遅まきながら気づいた瞬間でした。それをきっかけに、個人で動くのが当たり前になっている仕事でも、チームでパフォーマンスを最大化するために、何を変えていけばいいのかを考えるようになりました。
今は、食と農をテーマに0→1での新規事業開発にチャレンジしています。自分で目標設定して、プロセスも自分で考える、答えのない仕事です。食と農の分野で日本が抱えている問題はニュースや報道で目にすることも多いと思います。数多おこっている問題の中で本質的な課題は何かを考え、無印良品が解決に貢献する方法を開発することが私たちのミッションだと捉えています。例えば、地域と密着しているソーシャルグッド事業部と商品開発部が連携し、無印良品の無数にあるチャネルの中で、食と農の顧客接点を「点」ではなく「線」や「面」へと広げていくにはどうすればいいか?といった試みも、いまチャレンジしていることの一つです。
チームのメンバーに、外食のスペシャリストもいれば、販売のスペシャリストもいる。それぞれが培った視野と好奇心を活かして沢山のアイデアにトライし、検証してみることを大切にしています。まず、やってみないとわからないですし、いろいろな経験をしないと見えない景色もあるなと思っています。

圧倒的に役立ったチームを作る経験。
全社員が店舗を中心に考えている。

今までのキャリアを振り返って言えるのは、店舗時代に培ったチームビルディングの経験が、圧倒的に役立っているということです。瞬時にスタッフの特性を掴み、発言の背後の意図や想いを読み取り、その人のためになる経験をさせられるか、そうした人とチームを成長させ協働させる力は店舗の方が圧倒的に身につきます。
「自分はこうしたい」という強い想いは大事ですが、一人で実現できることよりも、たくさんのプロフェッショナルと協働した方が、より仕事のクオリティは上がります。本部で活躍できるのは、自分の意思を持ちながら、他部署と上手く連動・連携できる人。誰がどういう気持ちでどういう仕事をやっているかを早くキャッチできる人ほど、プロジェクトを良い方向に導けると考えています。ちょうど4月から、店舗を長く経験した人が同じチームにジョインしたのですが、やっぱり一緒にがんばりたくなる、協働したくなる力を持っている。チームの空気も盛り上がります。

チームのみんなは今週も先週もお店に行っています。もちろん私も。お店に立って、お客様のリアルを体験し、それを商品に反映できるのが、プライベートブランドをやっていることの醍醐味。社長の堂前は、「商品部とは、店舗の商品調達に横串をさす機能」と言っていて、あくまで店舗が主役で店舗の機能を横串で外に持っているのが商品部という位置付けなんだよ、と言うんですが、それがすごくしっくりきています。お店の経験がないと、全て机上の空論。この会社がどうなっていけばいいのかは、店舗に立ってみないとわからない、そう思います。

他のインタビュー