PROJECT:店長海外研修 海外の文化を知り 日本の無印良品の姿を伝える

良品計画では毎年、店長経験3〜4年目の社員を中心に、海外の無印良品店舗や現地の小売店の視察などを目的とした海外研修をおこなっています。2019年度はフィンランドの第1号店オープンと重なったため、研修の一環として現地で開店業務をサポートすることに。この海外研修で、店長たちは何を見つけたのでしょうか。

MEMBER

  • 井上 永香

    井上 永香 無印良品 ルミネ池袋 店長

※組織名称・掲載内容は取材当時のものです

STORY/01

想定外の事態からはじまった海外研修初日

 2019年11月8日、フィンランド・ヘルシンキにオープンしたMUJI Kamppi Helsinki。約3600㎡という欧州最大の売場面積と品揃えを誇るフィンランドの第1号店です。オープン初日の朝、雪の中にもかかわらず1000名を超えるお客様が列をなし、開店を心待ちにしている光景が広がっていました。世界各地で受け入れられているMUJIの新たな店舗が、確かな手応えとともにスタートした瞬間でした。

 この日から遡ること2週間前。オープンを間近に控えたタイミングでMUJI Kamppi Helsinkiにやって来たのは、店長海外研修に参加したメンバーたちでした。無印良品 ルミネ池袋の店長として海外研修に初参加した井上もそのひとり。

 例年は海外店舗の視察が中心の研修ですが、今年は店舗立ち上げのサポートに入って、「新規出店国で店舗をオープンさせるとはどういうことなのか」を自分の目で見て考えるのと同時に、現地の店舗に入り込んで「日本の無印良品の姿」を伝えることが、今回のミッションです。井上は「自分がこれまで担当した新店立ち上げの経験を活かせるのでは」と考え、事前に当時の資料を振り返り、入念に準備をしてヘルシンキに向かいました。

 しかし、店舗に到着した井上を待っていたのは、国内の新店立ち上げと比較して圧倒的に進みが遅い、深刻な状況でした。

 開店2週間前といえば、日本では売場の大部分は完成し、スタッフの動きや細部のディスプレイを確認する段階。一緒に現地を訪れた店長たちにも不安そうな表情が浮かんでいました。一方、現地のフィンランド人スタッフたちに焦る気配は見られません。

 研修期間は4泊6日。4日間という短い時間で自分たちに何ができるのか——。井上たちは初日の店舗の様子を観察しながら必死で考えていました。

STORY/02

「無印良品らしさとは何か」を議論し、伝える

 なぜ、開店準備が予定よりも遅れているのか。井上たちは店舗で作業を進めるなかで、あることに気がつきました。

「日本ではスタッフに指示書を渡すと、みんなそれに沿って行動してくれます。しかし、フィンランドのスタッフは『なぜこうするの?』と一つひとつの作業について毎回確認し、理由に納得するまでディスカッションを重ねるため、作業に時間がかかっていたのです。また、フィンランドの第1号店ということで、無印良品のイメージや理念をよく理解できていないスタッフもいました。そのため、『無印良品らしさ』について、一つひとつ伝えていかなければなりませんでした」

 例えば、商品の陳列方法。無印良品では通常、棚上のディスプレイにはそのカテゴリーの代表的な商品ひとつを並べ、下にバリエーションを陳列しています。井上がその方法を伝えると、現地スタッフからは「全種類を上に並べたほうが、お客様が選びやすいのでは」という意見が。確かにお客様目線で考えると、全商品を並べる陳列方法も正解といえます。しかし、それでは素材の良さを伝える「無印良品らしさ」が薄れてしまいます。井上は、「無印良品は素材感を大切にしているから、棚上は素材をよく見せるために同じ商品を並べることを基本にしている」という陳列方法の背景にある考え方を丁寧に伝えました。

 「お客様目線の考え方は当然フィンランド人スタッフも持っています。その意図や熱意を尊重しながら、無印良品の基本となる理念や考え方について伝えるように意識しました。一緒に作業するなかで彼らの新鮮な気持ち、独自の視点に触れ、私自身たくさんのことを学ぶことができました」

STORY/03

いつものことを、いつも通りに

 研修2日目。井上たちは初日の状況をふまえたうえで、「こんなにのんびり作業していたら開店に間に合わない」と焦ります。事態を打開するために自分たちに何ができるか———。店長同士のミーティングで相談した結果、オープンしたあとに現地スタッフが困らないためにも、自分たちがいつも日本でやっているスピード感を見せることにしました。

 「日本人の店長グループで担当コーナーの陳列作業を進めていたのですが、私たちがいつもやっていることをいつものスピードで作業しはじめると、現地スタッフのみんなも、ようやく自分たちがのんびりしすぎていることに気がついてくれたようでした。それだけでなく、わからないことがあるときに私たちに直接声をかけて、『いい方法はない?』と聞いてくれるようになったのです。私たちのことを信頼し、頼りにしてもらえたことがうれしかったですね。初日は別々に作業していたのに、いつの間にか日本人と現地スタッフが一緒に相談しながら作業をするようになり、一体感が生まれました」

 また、日本では一緒に働く機会がない店長同士がグループとなって作業することで、新たな発見もたくさんあったと井上はいいます。

「指示の出し方ひとつとっても、一緒に作業しながら伝える人、最初にゴールを伝えてあとは任せる人など、人によってやり方が異なります。スタートとゴールは一緒でもプロセスが違う。自分とは違うタイプの店長と働くことで、自分の引き出しを増やすことができたと思います」

STORY/04

自分たちの商品に誇りを持ち、
好きな理由を伝える

 店舗の応援作業がひと段落して、井上たちはヘルシンキの街の視察にも出かけました。そこで見たのは、自分たちがつくったものに誇りと愛着を持ち商売をする人々の姿でした。

 「ヘルシンキの街には小さな路面店が多く、自国のブランドや地元の食品を扱う店舗がたくさんありました。中には自らつくった作品を売っている人も。お店で接客している人たちが、自分たちの商品がどのようにつくられたか、なぜ自分はこの商品が好きなのかを楽しそうに話してくれるのがとても印象的でした。無印良品でもいま、店舗が地域の方々と交流してつながり、関係を築くことを目指しています。その中で大切になってくるのが、『好きな気持ちをお客様に伝えること』だと思うんです。ヘルシンキのお店で私が受けた接客はとても感じがよくて、私が理想とする接客でした。彼らの姿勢を、無印良品全体としても参考にしていくべきだと感じました」

 新店立ち上げで得た、文化やコミュニケーションの壁を乗り越えた経験。現地の街中で触れたあたたかな接客。井上は帰国後すぐに現地で得た経験を店舗のスタッフに共有し、店舗づくりに活かしました。そして、井上自身の考え方にも変化が。

 「今回の研修を通して、これまでは考えたこともなかった『海外店舗で働く』という選択肢が少しだけ身近に感じられるようになりました。今は選択肢のひとつですが、今後も店長業務の中でいろいろな経験をしていきたいと思います。それと、研修を通して今まで以上に思いを強くしたのが、『店舗では一番楽しそうに働こう』という気持ちです。自信を持って好きなものをお客様に伝えていくことを、これからも意識していきたいです」

 働く社員一人ひとりの成長が、無印良品の成長につながります。店長海外研修は、新しい無印良品の可能性を発見するプロジェクトでもあるのです。