PROJECT 地域の課題に向き合う 地域のくらしの中心地を再生。街に、ふたたび火が灯る。

2020年7月、新潟県上越市にオープンした無印良品 直江津。世界旗艦店である無印良品 銀座を超える世界一の規模の店を、なぜ新潟につくったのでしょうか。その決断の裏には、日本の課題に真正面から向き合っていくという無印良品の強い意志がありました。

MEMBER

  • 工藤 浩樹

    工藤 浩樹無印良品 営業本部 チャネル 開発部 店舗企画室 室長

  • 林 昌宏

    林 昌宏無印良品 直江津 店長

※組織名称・掲載内容は取材当時のものです

STORY/01

直江津の課題は、日本の課題

 工藤が初めて新潟県上越市にある直江津地区を訪れたのは、2018年5月のこと。上越市に本社を置くバス会社、頸城自動車が運営する直江津ショッピングセンターへ出店するかどうかを判断するリサーチが目的でした。ショッピングセンターのキーテナントである大型スーパーの撤退が水面下で内定しており、ショッピングセンターの約半分が空いてしまう状況になる。ショッピングセンターへの求心力を取り戻し、直江津地区の活性化をはかる取組みができないか、という相談を受けていたのです。

 街に活気が感じられない。それが、工藤の正直な感想でした。駅前には人の姿がありません。駅に続くのはシャッター商店街です。通常の出店基準に照らし合わせるなら、出店を見合わせる条件が揃っていました。しかし、無印良品は、この場所への出店を決断します。

 「人口の減少に、高齢化、中心市街地の空洞化。それに伴い、失われていく地域の活気。直江津が抱えている課題は、今、日本の多くの地域が直面している課題です。無印良品が日本でビジネスを展開していくなら、いずれは向き合わなければならないことです。

 小売業として健全経営をしながら、地域の活性化に成功するにはどうすればいいのか。この問いに対する正解には、どの企業もまだたどり着いていないのではないでしょうか。だからこそ、私たちの挑戦は、全国どこでも役に立つ事例をつくることになる、と考えたのです。仕事を通じて、真正面から日本の課題に取り組むチャンスをもらったと思っています」。

STORY/02

役割を超え、チームで世界一、世界初に挑む

 工藤を含む本部スタッフ4名と、店舗スタッフとして店長の林と地域との接点をつくるコミュニティーマネージャーの2名、合計6名が中心メンバーとなり、このプロジェクトを推進していきました。

 いち早くプロジェクトに参加した工藤は、店舗のハード面の協議や、無印良品にとって新しい取組みとなる店舗内へのパートナー企業の出店交渉や調整を、2019年10月から直江津に着任した店長の林は、直江津の状況の分析や店舗オペレーションの構築、売場づくりを主に担当しました。

 「無印良品には『お客様と直接接する現場で働く店舗スタッフが主役である』という考え方が浸透しています。今回のプロジェクトでいえば、店長の林をはじめとする店舗で働くスタッフが実現したいことに寄り添い、サポートを全力で行うのが私たち本部スタッフの役割です。

 ただ、無印良品において世界一の広さの店舗であり、世界初の取組みも満載な直江津の場合、一人ひとりが自分の役割だけこなしていては、何も実現することができません。自分の役割や部署を超えて、プロジェクトチームのメンバー以外も巻き込んだ無印良品というチームとして、無印良品 直江津をつくりあげていきました」。

STORY/03

変化の兆しをつくる

 旗艦店を超える広さとなる店舗を、無印良品の7000アイテムで埋め尽くすことが、直江津のためになるのだろうか、という話し合いからプロジェクトは始まりました。無印良品がいいと思うものを一方的に押し付けても、本当に直江津のためになる店はつくれない。そう考えたプロジェクトメンバーは、何度も直江津に足を運び、直江津で暮らす方々から直接話を聞く場を設けました。

 何に困っていて、何があれば嬉しいのか、今後、直江津がどうなっていけば嬉しいのか。その声を、ショッピングセンター全体のリニューアルや、売り場づくり、接客スタイルへと反映していきました。店内へのパートナー企業の出店や、地元の名店のレシピを取り入れたフードコート「なおえつ良品食堂」なども、地域の方々の声があったからこそ実現したといえるでしょう。

 「地域を変える主役は、そこで暮らす方々です」と工藤は言います。「私たちはスーパーマンではありません。役に立ちたいとは思っていますが、無印良品は、あくまで、いち小売業。地域を劇的に変えるほどの突破力はないと思っています。私たちにできることは、日々のくらしに関わっていくことで、変化の兆しをつくることです」。

STORY/04

店舗のオープンは、スタートでしかない

 2020年7月20日。無印良品 直江津はオープンしました。新型コロナウイルス感染症への対策として、オープン時の大規模な販促を控えたにも関わらず、好調な滑り出しを見せています。

 現在も、無印良品 直江津でお客様と向き合っている林は言います。

 「これまでは他のエリアに出かける機会が多かったけれど、無印良品 直江津ができてからは、直江津に人が来るようになった、というお話をお客様からよく伺います。直江津ショッピングセンターは、30年以上前から直江津のくらしを支えてきた場所。思い入れがあるお客様がとても多いんです。その場所に今一度、火が灯ったことをとても喜んでいただけているようです」。

 出店が難しいと判断していた場所で、しっかり売上を出しながら地域の役に立つ、という今後の無印良品が目指す店舗のありかたを実現したともいえる、無印良品 直江津。しかし、そのオープンはあくまでスタートでしかない、と工藤は言います。

 「直江津の課題は、社会の構造課題です。簡単に解決できるものだとは思っていません。店舗スタッフが、地域の方々と関わり続けていくことで、何年もかけて少しずつ良くなっていくものです。まずは、直江津ショッピングセンターに賑わいを取り戻し、ゆくゆくは、その活気が商店街や、上越市全体に波及していけば、と思っています」。

 無印良品 直江津で灯ったあかりが、いずれ日本全国に灯る日まで。無印良品の挑戦は続いていきます。