PROJECT:ペットボトル飲料の仕様変更 1日1本でも空のペットボトルを
減らしつづけていくために

良品計画では、資源循環型・自然共生型の社会および持続可能な社会の実現に貢献するために、さまざまな取り組みを推し進めています。その一環として2021年4月に行われたのが、ペットボトル飲料の素材を循環型資源であるアルミ缶へ切り替えるプロジェクトです。持続可能な社会の実現を目指す起点にあったのは、暮らしの上で欠かせない“水”でした。

MEMBER

  • 関根 千晶

    関根 千晶 食品部 菓子・飲料担当

※組織名称は2021年9月1日のもので掲載しています。

STORY/01

“水”をきっかけに、環境について考える

 無印良品は1980年の誕生以来、“生活の基本となる本当に必要なものを、本当に必要なかたちでつくること”をものづくりの基本としています。地球の資源をムダにせず、ごみを減らすための取り組みを進める中、2021年4月に着手したのが飲料に使用しているペットボトルを循環型資源であるアルミ素材へと切り替えることでした。この取り組みのきっかけとなったのが、2020年7月から開始した給水機設置プロジェクトでした。

 「そもそもの始まりは、無印良品としてペットボトル飲料水の販売を止めることでした。そのとき、もし水を飲みたいお客様がいたらどうするかという話し合いから生まれたのが、店舗で給水サービスを行う水プロジェクトです。お客様が水を飲みたいと思ったとき、給水機を使ってマイボトルに水を詰めれば、1日のペットボトル使用量を減らすことができるのではないかという考えがありました。

 水から生活習慣を変えることをお客様に提案するにあたり、ペットボトルに入ったお茶やジュースなど、既存商品をどうするかという悩みがありました。そのときは、嗜好品であるお茶などはお客様が選べるように残し、活動の第一歩として水から始める方針になりました。しかし活動が広がるにつれて、やはり既存商品のペットボトルについてもどうにかしたいという気持ちが社内で強まり、容器の素材を切り替えることが決まりました」と、関根は言います。

 ふたを開け閉めでき、軽量で持ち運びに便利なペットボトルに代わる素材を検討するにあたり、さまざまな素材が候補にあがりました。そのひとつとしてあがったのが紙でした。

 「牛乳などに使われている紙パックであれば、飲み終わった後に古紙として回収に出せるものの、賞味期限が短くなってしまうという問題がありました。紙容器の内側をアルミコーティングする加工を施せば、賞味期限を数ヶ月伸ばすことが可能になります。しかしアルミを剥がして古紙へとリサイクルできる廃棄物処理センターの数が限られているため、今度は燃やすごみとして捨てられてしまう可能性の高さが問題となりました。ごみとして捨てられることがなく、資源循環できる素材を使うという方向性の中で決まったのが、同じく候補にあがっていたアルミ缶でした」。

STORY/02

切り替えを実現するまでの道のり

 飲料の容器として使われている歴史が長く、リサイクル率だけでなく、缶から缶へと循環させる水平リサイクル率も高いアルミ缶は、資源循環の観点では理想的な素材でした。しかし商品のつくり手側として、解決しないといけない課題がいくつもあったと関根は言います。

 「まず課題としてあがったのが、アルミ缶を容器とした飲料製品を製造できる工場の少なさでした。透明なペットボトルは商品の液色が見えるためシズル感を伝えやすく、外側のラベルにお客様へ伝えたいことを印刷できるので、商品訴求をしやすいという利点があります。また素材としてもアルミ缶よりペットボトルのほうが安いこともあり、日本にある工場の製造ラインの多くが、より需要の高いペットボトルに対応する形式へと切り替わっているのが現状です。アルミ缶容器に対応した工場が少ないため、製造数量の最小単位であるロットを大幅に増やさないと製造自体ができないという状態でした。

 ロット数が増える点については、遮光性と気密性が高いアルミ缶容器を使うことによって賞味期限を伸ばすことが可能となるので対応ができました。さらに、ロット数を増やす代わりにアイテム数を集約して、単品の効率を上げることとしました。アイテム数を減らすことで売上が減ってしまうことも予想されましたが、今はアルミ缶への切り替えを優先して進め、これを私たちが行なっている環境の取り組みをお客様に知ってもらう一つのきっかけにしていくという意見で一致しました。アルミ缶への切り替えに対する反対意見は全く出ませんでした。これは、良品計画だからこそ取れた方針だと思います」。

 ペットボトルからアルミ缶へ切り替えることが決定してからも、関根が取り組まなければならない課題がありました。それは容器を切り替えることによって生じる、味わいの変化をどうするかでした。

 「ペットボトルからアルミ缶へ容器を変更しただけと思われがちなのですが、味わいや香りの調整も容器を切り替える上での大きな課題でした。ペットボトルとアルミ缶では製造方法が違うので、お茶の場合は熱処理や抽出の工程を変えないと、香ばしさが強くなったり、香りが薄れたりしてしまうという問題がありました。それまでと同じ味わいをアルミ缶で出せるようになるまで、何度も試作を繰り返しました。

 また飲料の種類によっては、口当たりや果汁感などをアルミ缶で生かすことが難しいものもありました。いろいろと工夫をしてみたものの、味わいの特長をどうしてもアルミ缶で出せない商品については、製造を止める方向にしました。これらの飲料については、今後アルミ缶で同様のものをつくれるようになったときに、再び商品化したいと思っています」。

 そして容器の切り替えに着手してから約1年が経った2021年4月、アルミ缶に切り替えた12種類の商品が店頭へと並びました。

STORY/03

情報発信を続けることの大切さ

 アルミ缶へ切り替えた飲料を発売するにあたり、無印良品の店内で特にお客様の目に止まりやすい位置に、容器の切り替えを告知するポスターやパネルが設置されました。「この告知が実現できたのも、良品計画の特長だと思います」と、関根は言います。

 「多くの飲料メーカーの場合は商品を販売する上で、コンビニエンスストアや自動販売機における自社商品の陳列スペースをいかに確保するかが重要なので、販売と情報発信を同じ場で行うことは難しいと思います。でも良品計画の場合は、無印良品という自社の売場があるので、取り組みに関する情報発信を行うことが可能です。このような、良品計画だからこそできる取り組みは、今後も行なっていきたいと考えています」。

 また、お客様からいただいた声をきっかけに、情報発信をすることの大切さを感じたとも関根は言います。

 「清涼飲料市場における無印良品の飲料品の占有率はごく僅かですが、容器を切り替えたことに関してはSNSなどを通してお客様から好意的な声をいただいています。その一方で、アルミ缶の形状が丸くてかわいいという理由で購入されたというお客様もいらっしゃいました。これは嬉しい声であると同時に、なぜこのような取り組みを私たちが進めているのかを伝え続ける必要性を感じました。

 例えば環境問題やSDGs(持続可能な開発目標)については、多くの方々が情報としてご存知だと思います。ですが、それらの問題が自分の生活とどのように繋がっているのかが分かっていないと、状況を改善するための第一歩を踏み出せないとも思います。日常生活の小さな行動でも、環境の改善に繋がるきっかけになることをお客様へしっかりと伝えていくことも、環境に配慮した商品をつくるのと同様に大切だということは、今回の取り組みの中で気付かされたことのひとつです」。

STORY/04

「できること」を「続けられること」に

 飲料の容器をペットボトルからアルミ缶へ切り替えるきっかけとなった、給水機の設置や、水アプリの活用を促進する水プロジェクトについても、今後さらに活動を広げていきたいと関根は言います。

 「給水サービスは幅広い年代の方にご利用いただいており、例えば会社員の方はお昼休みに、学生の方は学校の帰り道に店舗へと立ち寄ってくれています。また、ショッピングセンターの中にある店舗の場合、給水サービスを利用してから買い物をされるお客様もいらっしゃいます。容量が少ないマイボトルでも、空になったら給水機で水を詰められるという仕組みが、マイボトルを持ち歩く習慣を定着させるきっかけとなっているのを感じています。そこで、より多くの方が給水サービスを便利に使えるように、現在は給水スポットを増やすことに取り組んでいます。

 その中で2021年5月に実現したのが、上水道のすべてを天然地下水でまかなわれている熊本県熊本市との『水を通じた持続可能な社会の実現のための連携協定』の締結です。この締結をきっかけに市内における複数の公共施設で、水道水を使用した給水機とマイボトル使用の習慣化を提案するツールを設置することができました。この熊本市での取り組みのように、無印良品の店舗以外にも給水スポットを増やせるように、他企業や各自治体の方々と話を進めているところです。

 また、給水を日常生活に取り入れてもらうためのツールとして良品計画が開発した水アプリでは、給水スポットを調べるだけでなく、環境への貢献度が分かる機能があります。この機能を使うと、個人だけでなく利用者全体でのペットボトル削減量とCO2削減量も可視化されるようになっています。一人ひとりが行っていることは小さな行動でも、全体で見たら大きな変化が生まれていることが実感できます。この機能のように、連帯感を持ちながら取り組みに参加いただける工夫も、これから行う情報発信の中でもやっていきたいと考えています」。

 環境に配慮した商品を販売するだけでなく、誰もが無理なくできることから提案し、生活の習慣として定着していく仕組みもつくる。持続可能な社会への第一歩として、1日のペットボトル使用量を減らしたいということから始まった良品計画の取り組みは、多くの方々の協力とともに、着実に歩みを進めています。