MUJI BUSINESS CAMP WEEK - MUJIの『働く』を知る1週間 - 2020年12月14日(月) 店舗をくらしの真ん中に。地域に巻き込まれる事業開発とは。

  • #ソーシャルグッド
  • #個店経営
  • #地域の課題解決

2020年12月14日(月)~17日(木)の4日間、良品計画では様々なテーマについて社員が語るイベント「MUJI BUSINESS CAMP WEEK-MUJIの『働く』を知る1週間-」を開催。“ソーシャルグッドな取り組み”というテーマの中では、世界最大級の店舗、無印良品直江津の立ち上げに携わったソーシャルグッド事業部の河村さんと、無印良品 直江津コミュニティマネージャーの古谷さんが登壇し、良品計画が考える社会貢献の形や地域との向き合い方について語りました。
*進行役:澤部 佳奈(人事総務部 組織・人材開発課)

イベント登壇者

  • 河村 玲

    河村 玲

    2019年中途入社
    ソーシャルグッド事業部 スペースグッド担当

    2019年7月入社。入社以降、ソーシャルグッド事業部スペースグッド担当部長として勤務。転職前は百貨店にてバイイング、商品企画開発、マーケティング、販売まで一連のマーチャンダイジング活動を行いながら、旗艦店リニューアル、新規店プロデュース、新規事業開発などを手掛けてきた。

  • 古谷 信人

    古谷 信人

    2003年新卒入社
    無印良品 直江津コミュニティマネージャー

    2003年入社。無印良品 イオン茨木で勤務後、2006年に無印良品 札幌パルコの店長に就任。その後、5店舗の店長を経験し、2016年には無印良品 ガーデンパーク和歌山、広島パルコのブロック店長として活躍後、2019年より広島地区のブロックマネージャーとして勤務。2019年より無印良品 直江津のコミュニティマネージャーとして活躍。

※組織名称は2021年2月1日時点のもので掲載しています。

1店舗を起点に、地域の役に立つことができないか

澤部:

世界最大級の無印良品店舗、無印良品 直江津の立ち上げに携わったというお2人ですが、さっそく本題に入る前にまずは簡単に自己紹介をお願いします。

河村:

河村 玲

私は本部のソーシャルグッド事業部として、店舗内外でのソーシャルグッドな取り組みを店舗に在籍している古谷さん達と一緒に考え、事業の推進をしております。聞き慣れない事業部の名前かと思いますが、良品計画が考え方として掲げている「感じ良い暮らしと社会の実現」に中心となって取り組んでいる部署になります。

古谷:

古谷 信人

私は無印良品 直江津でコミュニティマネージャーをやっています。コミュニティマネージャーというのは、お店の中で働く店長とは違い、店舗の外、つまり地域へ出ていき地域に巻き込まれながら、こちらも地域の人たちを巻き込んで活性化していくようなことをしています。

河村:

河村 玲

世界最大級の旗艦店をなぜ新潟県直江津市に作ったのか

それでは、私が古谷さんと一緒にプロジェクトチームの一員となって手がけました無印良品 直江津というお店についてお話しします。今日は数百名の方にご参加いただいているんですが、おそらく直江津という街について知らないという人が、ほとんどだと思います。実際に私も古谷さんも行ったことがない場所でした。しかし、直江津という街には大きな課題がありました。それは中心市街地の空洞化です。日本全国色々な地域で起きている課題ですが、車社会になって、どんどん店舗や住宅街がロードサイドに出て行ってしまう現象のことを言います。

今日お話しする直江津プロジェクトとは、直江津が抱える様々な課題に対して、無印良品が役に立てることは何なのかというのを自分事として考えてみたプロジェクトになります。古谷さん、どんな課題があったか説明をお願いします。

古谷:

古谷 信人

直江津は、北陸新幹線が開通するまではJR西日本と東日本の結節点でしたが、北陸新幹線の開通をきっかけに、駅の利用者が次第に減っていきました。駅を利用する人が減ると、当然駅から続く商店街にも人がいなくなります。若い人たちは車で移動するので、駐車場の広い町から少し離れた便利な商業施設に集まるようになり、どんどん街中が空洞化する事態になっていました。次第に、街中は高齢者の姿しか見えなくなり街の商売も元気を失っていきました。116年ほど続いていた和菓子屋さんも店を閉めてしまう、そんな課題がありました。

図:無印良品直江津の立ち上げについて 市街地の空洞化

河村:

河村 玲

深刻化する都市の空洞化

電車を利用する人は学生しかいないくらいで、本当に少ないですよね。直江津には100年続く朝市がありますが、来場者も出店者も高齢化。駅前の商店街はいわゆるシャッター商店街に…という状況になっていました。

古谷:

古谷 信人

そんな場所に対して良品計画として何ができるのか、真剣に考えました。当時の直江津は、若い人たちやファミリー層の多くはロードサイドの店舗に買い物に出かけていました。一方で良品計画が出店を決めた場所は 60代70代の方しか利用していない施設。高齢者だけではなく、若者やファミリー層の方にも使っていただけるような商業施設にするにはどうしていけば良いのか、そしてその結果、直江津という街自体を元気にするにはどうすればいいのか、というところが大きなポイントでした。駅を利用される方が増えたり、商店街が人で溢れたり。マルシェみたいなものができて活気づくということも実現できたらいいなと想像していました。

河村:

河村 玲

そうですね。直江津のプロジェクトは、単純な店舗作りではなく、店舗を核にした地方創生に取り組もうというプロジェクトだと言えると思います。

古谷:

古谷 信人

無印良品を、地域の“くらしのまんなか”にできないか

コンセプトとして、地域をくらしの真ん中にする役割ができるような店舗を作れないかということで考えました。学ぶ場所でもあり、遊ぶ場所でもあり、買い物する場所でもあり…というような所ですね。

図:無印良品直江津の立ち上げについて〈コンセプト〉

河村:

河村 玲

このコンセプトに沿って、本部、現場のコミュニティマネージャー、店長など、我々以外にも5名ほどのメンバーでプロジェクトに取り組みました。プロジェクトをやるにしても地域を知らなきゃ何も始まらないので、「暮らしの編集学校(以下、編集学校)」という良品計画が年に1回行っている研修プログラムも全国から公募で集まった社員と一緒に行いました。

古谷:

古谷 信人

上越での編集学校は、4チームに分かれて行動しました。城下町の高田という地区を担当するチームと直江津の店舗周辺地区のチーム、中山間地の大島という地区を担当するチーム。そして、柿崎という海側の町のチームというように4チームに分かれて、地域の課題や素材で、どういう事業ができるかということを構想しました。

河村:

河村 玲

実際にメンバーが各地域に泊まり市場に入ったり、地域のおじいちゃんおばあちゃんに話を聞いたり、移住者の人と交流したりしました。また、上越教育大学の学生さん、多分皆さんと同じくらいの年齢の方にも話を聞いたりしました。その結果、4つの班でそれぞれ4つの事業を構想し、発表しました。

図:無印良品直江津の立ち上げについて〈暮らしの編集学校〉

古谷:

古谷 信人

店舗が起点となり、地域全体を元気にしたい

まず、バス停をもっと活用できないか、情報発信の場にできないかという事業プランです(①)。そして2つ目は、町屋などをもっと地域の人たちに使ってもらうために無印良品で何ができるのかというようなことを考えました(②)。中山間地に色々な素材がたくさんあるので、それを事業として学校を開けないかという意見も出ました(③)。そして最後は行商バスです。直江津ショッピングセンターのデベロッパーがバス事業をしているということで、バスを活かして何かできないか、なんてことを考えました(④)。

河村:

河村 玲

実はこの事業構想は、上越市村山市長に代表者がプレゼンテーションしたんですよね。その結果、地域活性化包括協定の締結につながったということもオープン前にありました。

古谷:

古谷 信人

直江津のお店は夏にオープンしたのですが、地域に無印良品のことを知らないご年配の方がたくさんいらっしゃるということを想定して、オープン前の3月から期間限定ショップも始めました。無印良品が来るという噂は地域に広がっていたので、それを利用して100年続く朝市にも出店しました。先程もお伝えしたように、朝市の出店者やお客様も高齢化が進んでいる状態でしたので、朝市が注目されればお客様が増え、お客様が増えたら出店者も増える、そういうきっかけになるかなと思ったんですよね。

河村:

河村 玲

期間限定ショップに最初に並んでくれたのは、なんと高校生の3人組だったんです。朝早くから並んでくれたみたいで、いつもはシニアの方中心のショッピングセンターだったので、すごく嬉しかったですね。

2地域を巻き込むのではなく、地域に巻き込まれる

河村:

河村 玲

そうしてようやく7月20日に無印良品 直江津はグランドオープンを迎えました。無印良品 直江津には、他の店舗にはない色々な特徴がありますよね。

古谷:

古谷 信人

地域の良いものや良い素材はとことん使う

そうですね。まず1,2階共通で、「雁木造」と呼ばれる雪よけの屋根のデザインを取り入れました。これは雪国では当たり前なのですが、雪が降った時も人が通れるような建物の造りのことを言います。直江津の商店街にも見られたので、店舗の特徴として取り入れてみました。その他にも、3.5万冊の本を陳列したBOOK&CAFEやWi-Fi完備で勉強スペースにも使えるOpen MUJIなどもあります。中でも大きな特徴は「なおえつ良品市場」と「なおえつ良品食堂」ですね。上越地域の農産品などを販売する市場と、上越の良いものや良い素材を使って地域の名店のレシピを教えてもらった料理を提供するような食堂を作りました。

写真:なおえつ良品食堂

河村:

河村 玲

食堂は、僕たちにとっても思い入れのある場所ですよね。実はもともと良品計画にはカフェ・ミール事業があるのですが、この店舗ではあえて取り入れませんでした。なぜならそれは、直江津独自の良さを残しておきたかったからです。この場所はもともとがファミリーレストランだったそうで、地域の人から子供の時に週末お父さんやお母さんと一緒にここに来るのが楽しみだったとか、初めてデートしたのはここだったとか、地域の色々な思い出が詰まった場所だったという話しを伺いました。それを聞いて、古谷さんと「ここはぜひ地域食堂にしたいね」と。今では1番の集いの場所になっていて、店舗の中でも特徴的な場所になっています。

こんな感じで取り組んできた直江津プロジェクトですが、様々な人が関わっているのでどういうふうに仕事を棲み分けて進めているのか気になっている方もいるかなと思います。実際は我々良品計画の社員だけでなく、上越市の市役所の方々含め、たくさんの地域の方々と色々な話をして進めていました。

古谷:

古谷 信人

地域全体を活性化していく「MUJI to GO」の取り組み

移動販売の「MUJI to GO」もそうですよね。地域の方には野菜とか魚とか卵とかお米とかを持っていった方がいいかなと思うのですが、それをしてしまうと地域で移動販売スーパーとかをされている方の仕事を奪ってしまうことになります。せっかく頑張っていらっしゃるその商いを、ちょっと横取りしてしまうようなことはあってはいけないと思いました。そこで、無印良品に行きたいけどなかなか来るのが困難な方向けに、少しでも無印良品で買い物をする体験を味わっていただく場を提供しています。

写真:移動販売「MUJI to GO」

河村:

河村 玲

そうですね。実はこのバスはコロナ禍を受けて実現をした企画になります。店舗のオープンのタイミングが7月末だったのですが、積極的に店舗に集客できない状態でした。高齢化が進むエリアですので、店舗に来ていただけないのであれば、無印良品が自ら出向こう!という意味で「MUJI to GO」を企画しました。実はこれは「暮らしの編集学校」のある班が構想したアイデアで、2ヶ月ほどで実現させました。コロナの影響で観光事業の稼働がほぼゼロになりバスのオーナーさんも困っていたので、観光で使っていたマイクロバスを改修して稼働させています。

澤部:

ちなみにお2人が、実際に地域に関わる上で大切にしていることというのは何でしょうか。

古谷:

古谷 信人

おせっかいはせず、「役に立つ」

本当の意味で「役に立つ」ということを常に考えています。押し付けがましくなってしまった瞬間に余計なおせっかいになってしまうので、そこをしっかりコミュニケーションするようにしています。「これはしなくてもいいんじゃないかな」ということはしっかり汲み取るようにしています。

河村:

河村 玲

そうですね。あとは会社の中でよく使われる言葉になりますが、「巻き込むのではなく巻き込まれる」という言い方を良品計画ではします。当然地域には住民の方や地元の企業の方がいらっしゃいます。地元に積み上がった文化に我々が何か「よし、一丁やってやろう」というように巻き込むのではなく、地域に巻き込まれながら住民の方や地元の企業の方と一緒になって盛り上げていこうということですね。このスタンスをとても大切にしています。無印良品 直江津が我々の想定以上に地域に支持されているのはまさに、「三・八の市」という朝市に出店することで、100年以上続く文化に古谷さんたちが「巻き込まれた」ことがポイントだったのではないかと思っています。

澤部:

ありがとうございます。お2人のお話を伺っていると、改めて良品計画は挑戦できる風土があるんだなと思います。お2人はどう思いますか。

古谷:

古谷 信人

そうですね。もちろん利益も大事ですが、ちょっとやってみる、実際に動いてみる、ということを許してくれる会社だと思います。上手くいけば継続できますし事業にもなるかもしれません。そういうところが良品計画の良いところかなと思います。

河村:

河村 玲

目指しているのは“超”小売業

これも社内で色々キーワードとして出ていますが、「超小売業」みたいな言い方を良品計画ではしますよね。「超」は「超える」ですね。小売業を超えた事業展開をしていきましょうということを、会社全体で考えています。東京の湾岸地区の有明という所に大きなお店がオープンしたのですが、そこでは空間事業やリノベーション、リフォームなど、暮らしや生活全般に入っていくような事業もやっています。もちろん利益も大切ですが、そのように小売業を中心としながら大きな絵を描き、事業として花開いていくという形で挑戦しやすい風土というのは実際あると思いますし、はみ出る人は伸ばしましょうというような風土があると思います。

澤部:

ありがとうございます。では最後に、学生のみなさんへメッセージをお願いします。

古谷:

古谷 信人

自分が生まれ育った地元を大切にして欲しいなと思います。地元でも物質的だけじゃなくて精神的にも「感じ良いくらし」ができるように、行動力などのスキルや社会人としての知識を付けて、ぜひ地元に戻って地元の役に立つような存在になって頂けたらなと思います。

河村:

河村 玲

時代が違うのでこんな話をするのも恐縮ですが…。自分は就職活動をしていた当時、小売業に行くなんて1ミリも考えていませんでした。でも結果的に小売業に入って約20年間商いをしています。みなさんは今色々な会社を見られていると思うのですが、このタイミングだからこそ見れる業界や出会える人がいると思うので、あまり制限をつけず、「この会社面白そうだな」という気持ちを大切にしてほしいと思います。

澤部:

河村さん、古谷さん、本日はありがとうございました。